心ない言葉を浴びせられたうえ婚約破棄宣言までされてしまった日の夕暮れ時……意外な人から想いを告げられまして!?
婚約者エリムロールから心ない言葉を浴びせられたうえ婚約破棄宣言までされてしまった日の夕暮れ時。
「ナナリーさん! ずっと好きでした!」
一年ほどずっとお世話になっている若い郵便屋さんモッツから想いを告げられた。
「え……」
「婚約破棄されたと聞きまして、それで……想いを伝えるなら今しかない、と!」
けれどその時の私はまともな対応はできなかった。
なぜなら婚約破棄された衝撃で疲れ果てていたからである。
「ええと……すみません。私今そういう気分じゃないので。ではこれで失礼します」
そう言って、その場から離れる。
そんなことしかできなかった。
申し訳ないと思いつつも。
丁寧に対応できるほど心の余裕はなかったのだ。
――しかし彼は諦めなかった。
「ナナリーさん! 茶葉を贈らせてください!」
「え」
「お好きですよね!?」
「あ、はい」
「ああ良かった……」
モッツはまた私に接近しようと行動してくれた。
「そ、それで、ですねっ……今度一緒にお茶とかしませんか!?」
「お茶?」
「飲みましょう! それを! 二人で!」
「ええと……そうですね。また機会があれば、お願いします」
「はい! はい! お願いしますッ」
彼の気持ちには気づいている。
でも上手く応える自信がない。
エリムロールの件をまだ少しひきずっているから。
「こんにちは!」
「あ、こんにちは。今日は良い天気ですね」
ただ、彼の仕事ゆえ毎日顔を合わせるので、段々距離を縮めて関われるようにはなってきた。
「はい! とっても!」
「お仕事お疲れ様です」
すぐには無理でも、徐々には親しくなれる――そんな気はする。
それは多分、彼の想いが真っ直ぐなものだからだろう。
「ありがとうございます! あ、そうでした、ちょっと大丈夫です?」
「はい」
「今度お花を贈りたいのですけど……お好きな種類とかありますか?」
「そうですね、向日葵とか好きですよ」
「おお! 向日葵! 明るくって可愛い、みたいなイメージです。詳しく知らなくて恥ずかしいですが……と、とにかく! ではお贈りするのはそれにしたいと思います!」
――そんな風にして月日は流れ。
「僕と結婚してください!!」
「……ええ、喜んで」
私はモッツと共に行く未来を選んだ。
「思えば、あの絶望から私を救ってくれたのは貴方でした。……感謝しています。貴方が寄り添っていてくれたからこそ、今の私があります」
◆
結婚式から数年が経った今でも私とモッツは仲良しだ。
彼の友人からは超仲良し夫婦なんて冗談めかして言われることもあるほど。
私たちはきっとこれからも仲良しなままで生きてゆくだろう。
ちなみにエリムロールはというと。
あの後女関係で揉め、恨まれ、一人の女に路上で油をかけられたうえ火をつけられてしまい――その事件によって死亡したそうだ。
◆終わり◆