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さくっと読める? 異世界恋愛系短編集 4 (2024.1~12)  作者: 四季


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爪が欠けただけで婚約破棄!? ~しかしその先に幸せがあったのでもう何も言うつもりはありません~

「あっ」


 婚約者ミッドルとお茶をしていた最中、左手の親指の爪が欠けてしまった。


 それを目撃したミッドルは。


「うわ、キモ」


 そんなことを言って、口角を大幅に下げる。


 しかもその後何度も吐きかけているかのような音をわざと出して「吐き気がする」と繰り返し主張した。


「……体調不良ですか?」


 あまりにも繰り返してくるのでそう尋ねてみたら。


「違う、お前のせいだよ。爪が欠けるとかないわ。そんなところ見せられたら吐き気とまらなくて普通だろうが」


 そんな風に答えを投げ返されてしまった。


 爪が欠けただけで吐き気? ……その価値観は正直よく分からない。欠けた爪の欠片が紅茶に入った、とかなら吐き気がしてくる可能性はあるだろうけれど。しかもただ端が少し欠けただけで? それだけで何度も吐きそうになったりするものか?


 大きく欠けただとか、爪そのものが剥げたとか、血が出ているとか、そういう残酷要素があるわけでもないのに。


「え。……これだけで、ですか?」

「これだけ? はああ!? ふっざけんなてめぇ!! ちっせえことみたく言うなや!!」


 急にキレ始めるミッドル。


「もういい! お前なんか嫌いだ!」

「ええっ……」


 困惑することしかできずにいると。


「お前との婚約は、本日をもって破棄とするッ!!」


 急にそんなことを叫ばれてしまった。


 えええ……なんじゃそりゃあ……。


 内心そんなことを思い。

 けれどもそれを実際に口から出すことなどできるわけもなくて。


 そうして私は彼の前から去ることとなったのだった。


 ただお茶を楽しんでいただけ。

 ただ爪が少し欠けただけ。


 なのに、どうしてこんなことに……。



 ◆



 驚いたことに、あの後そう時間を空けず、ミッドルはこの世を去った。


 彼は夜道を散歩していたところ野犬の群れに襲われたそう。その際数ヶ所を本気噛みされてしまったそうで、重傷を負ったのだとか。ただ、その負傷自体では死ななかった。というのも、通行人が通報してくれたのだ。それで比較的早く病院へ搬送された、そのため手当てを受けることができて傷による死は避けられた。


 ――だが恐ろしいウイルスは既に体内に入ってしまっていたのだ。


 噛み傷から入った危険なウイルス。

 それの働きにより彼は正気を失いたびたび暴れる発作に見舞われるようになる。


 そしてその果てに人を襲って――近隣住民からのしらせを受けて駆けつけた治安維持隊の隊員によってその場で殺された。


 ウイルスに支配され、自我を失い、そんな状態での行動によって殺められることとなってしまうなんて。


 普通に聞けば可哀想な話である。


 でも、彼の場合は、可哀想とは思わない――否、思えないし思いたくもない。


 彼へ同情などする気は一切ないのだ。

 だって彼はかつて私を傷つけた人だから。


 爪が欠けただけで婚約破棄してきたような人に対して『可哀想』なんて思って差し上げるつもりはない。



 ◆



「ああ、本当に、君に出会えて良かったよ」


 あれから数年、私は幸せな結婚をすることができた。


「私も同じ気持ち」


 見つめ合うだけで幸せになれるような人と巡り会えたこと、それは人生最大の幸運であった。


「本当かい?」

「ええもちろん。貴方のことが好きよ」


 辛いこと、嫌なこと、色々あった。

 特にミッドルとの件では不快な思いをしたりもやもやしたりと目立たないけれど私なりに苦労はしていたのだ。


 でもだからこそ今がある。


 過去の出来事、すべてがあって、今の私が存在している。そしてそれと同時に、すべてのものを経てこそ現在があるのだ。


 愛しい彼と出会えたのだって、理不尽な婚約破棄という過去の残念な出来事があったからこそ。


「君はとても美しい。でも容姿だけじゃない。君の美しさは中から溢れ出てきているものだと思うんだ。だから、やはり、美しさとは見た目だけのものではないのだね。きっと。君に出会って、改めてそう気づかされたよ」

「いつも褒めてくれてありがとう」

「自己満足でごめん。ちょっと変なことを言っているかもしれない。でもそれが本当の心だし本当に考えていることなんだ。理解してほしい、君を否定する気は一切ない。だから、もし変なことを言っていたら申し訳ないけれど……すべての言葉は愛ゆえなんだ」



◆終わり◆

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