婚約者の母親が婚約者に私に関する批判を吹き込んでいたようです。そのせいで婚約破棄されてしまいました。
婚約者パットリュー・オズ・アポポクラトルスはある日突然私との婚約を破棄するといったようなことを言い出した。
よくよく話を聞いてみると、彼は、母親から「あんな女は相応しくない!」「あんなやつを妻にするなんて駄目よ!」などと私に関する批判を長きにわたり聞かされていたよう。
「ごめんな、そういうことだから。相応しくないやつとは結婚できないんだ。それは俺のためにも我が家のためにもならない。だから……さよなら」
「パットリュー……本気、なのね」
「もちろんだ」
「そう……分かった。じゃあ受け入れるわ。きっともう何を言っても無駄でしょうから……」
こうして私たちの婚約者同士である時間は終わりを迎えたのだった。
その日の晩は雪が降った。
傷ついた心を洗うような白いものたちが舞い降りてくる。
実家で窓越しに見た雪はとても綺麗だった。
舞い落ちる白に想いを馳せて。
今はただ、一人夜を越す。
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あの後聞いた話によると、パットリューは残念な目に遭うこととなってしまったようだ。
彼はその日馬車に乗って少し離れた地へ向かっていたそうなのだが、その途中で大渋滞に巻き込まれ停止していたところ夜中にその地域で活動する賊に襲われてしまい、その際に金目の物をすべて奪われてしまったのだそうだ。
そして衣服まで剥がれて。
冬の夜のあまりの寒さに耐え切れず、彼は死にそうになってしまったのだそう。
幸い、倒れていたところを近所の人に救助してもらえ、それによって一命は取り留めたようだが。
以降彼は馬車を見ると発狂するようになってしまったのだとか――つまり馬車恐怖症になってしまったのである。
また、パットリューに私への批判を吹き込んでいた彼の母親はというと、彼女もまた痛い目に遭うこととなったようである。いや、痛い目、と言うには悲惨な最期。痛い目に遭う、なんていう言い方は軽く言い過ぎだろう。
……なんせ、彼女は死んだのだから。
冬の終わり頃のある日、夜道で何者かに背後から襲われ、急に刃物で刺されて落命したのだった。
一体誰が?
何が理由で?
そのあたりは不明だけれど。
なんにせよ、パットリューの母親が亡くなったということだけは決して変わることのない事実なのである。
◆
あれから数年、私は良き出会いを手にすることができた。
父の紹介で知り合った青年と一度顔を合わせて。
そこから急激に仲良しになっていって。
そうして関係を深めてゆき、その先で共に生きることを決めたのだ。
出会いから婚約を決めるまで一年もかからなかった。短い、と言われてしまうかもしれないけれど、私たちにとってはそれが自然な時間の長さだったのだ。私たちに必要な時間はそのくらいのものだった、ということなのである。
私たち二人は明るい未来を見据えて歩んでゆく。
……そう、もやもやしてしまうような過去などもはやどうでもいいのだ。
見つめるのは、隣にいる愛する人だけ。
見据えるのは、希望ある未来だけ。
◆終わり◆




