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さくっと読める? 異世界恋愛系短編集 4 (2024.1~12)  作者: 四季


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愛されない婚約者でもいい、そう思っていたのに……女の嘘を信じた彼から婚約破棄され追放までされてしまいました。

 この国において最も偉大なる女神であるとされている火の女神を宿して生まれた私は、その生まれゆえに、実の両親とは早くに離され特殊な教育を受けさせられて育った。


 そして年頃になると王子アルリドスと婚約。

 それは国を共に護ってゆくための関係であった。


 でも私はそれでいいと思っていた。たとえ愛し合ってはいなくても、それでも、協力さえできればやってゆける。だから大丈夫なのだと。そう思っていたし、明るい未来を信じていた。私は私がすべきことをすればいい、そう心を決めていたのだ。


 しかしアルリドスにはリイナ恋人がいて。


 リイナは私を敵視してきていた。

 婚約後は特にことあるごとに嫌がらせをされていた。


 一度「愛されているのは貴女なのですから良いではないですか、もう意地悪をするのはやめてください」と言ってみたこともあるのだが、それでも彼女はただ睨むだけで私を許してはくれなかった。


 リイナにとって私はこの世界で一番不愉快で鬱陶しい存在なのだろう。


 彼女から向けられる視線はいつだってそんなことを訴えているようなものであった。


 で、ある時ついに。


「貴様との婚約、破棄とする!!」


 アルリドスよりそんなことを告げられて。


「まさか貴様がリイナを虐めていたとはな。知らなかった。……愛されないからか? 嫉妬で虐めたのだな?」


 しかも嘘まで吹き込まれていて。


「え。ま、待ってください! 私は虐めてなどいません!」

「は? 何を今さら。とぼけたって無駄だ」


 アルリドスは完全にリイナの言葉を信じ込んでしまっていた。


「とぼけてなどいません」


 本当のことを言っても。


「嘘つけ!! ならリイナが嘘を言ったと、そう言うつもりか!? ふざけるな!! リイナはな、ずっと忠実に傍にいてくれている素晴らしい女性だ。性格だって良い。そんな彼女がくだらない嘘をつくと思うか? そんなわけがないだろうが!!」


 彼は少しも聞こうとしてくれない。

 逆に怒り出すばかりである。


「貴様のような性格ブスはこの城には要らん! さっさと出ていけ!」


 こうして私は理不尽に捨てられたのだった。



 ◆



 婚約破棄され、城からも追放された。


 今さら実家へ戻ることはできない。

 だって親とはもうずっと会っていないから。


 仕方がないので、私は、通りすがりに目に留まった施設に一晩泊まらせてもらった。


「すみません、勝手なことを……」

「いえいえいいんですよ。きっとこれも何かの縁でしょう。どうか、今夜はゆっくりなさってくださいね」


 施設で働いている女性の柔らかな笑顔に癒される。


 その日はゆっくりと眠ることができた。



 ◆



 あの婚約破棄から数年、私は今もあの時泊めてもらった施設に滞在している。


 どうせ行くあてなんてない。

 どのみちやるべきことだってもうない。


 ならば、と思い、私はここで生きることを選んだのである。


 施設には親を亡くした子などがいて、働く女性たちはそういった子らを育てている。その一員に私も加えてもらった。一般家庭で育っていないからか最初は色々な意味で戸惑いもあった、けれど、女性たちに教わりながら段々成長して。成長するのは子どもたちだけではない。私もまた人として徐々にではあるが成長してゆけていると感じた。


 やったことのないこと、経験のないこと、そして知らないこと――それらを身につけてゆくのはとても楽しいことだ。


 苦労もあるけれど、充実感だって味わえる。


 私は今の暮らしを愛している。

 そして周囲にいてくれる温かな人たちのことも大切に思っている。


 また、火の女神が宿っていることを活かして、キャンプファイアーをするのも最近の楽しみだ。


 己の力を使い、皆に喜んでもらう。そういった経験はこれまであまりなくて。でもここへ来てからそういう機会も増えてきた。そういった経験を重ねていると、もっと皆を喜ばせたい、という気持ちも強まっていく。そしてまた、自分に自信が持てるようになっていくのを感じる。


 私は生きていて良いのだ、と、今はそう思えるようになった。


 ちなみに。


 かつて私を傷つけた王子アルリドスとその恋人リイナは、早くにこの世から去ることとなったようだ。


 二人はもうこの世にはいない。

 共にあの世へ送られることとなってしまったようである。


 何でも死因は火事に巻き込まれたことだとか。


 アルリドスは煙を吸い過ぎてしまったために死に至り、リイナは逃げ遅れて火と共にこの世を去った。


 死の瞬間、二人は共には在れなかったようだ。



◆終わり◆

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