今日婚約破棄を告げられました。~けれど今はもう涙が出ることはありません~
柔らかな風が吹いている。
窓から眺める夜の風景はどことなく哀愁漂うものだ。
私は今日婚約者カーザンより婚約破棄を告げられた。
彼が言うには、私のような平凡な女と関わっていたら自分の運気まで平凡になり人生がくだらなくなってゆく方向へ汚染されてしまう、のだそうだ。
いきなりそんな理由で婚約破棄宣言されたからその時はかなり驚いた。
どうしよう、どうしよう、と、混乱して。取り敢えず告げられたそのまま家へ帰ったのだけれど、母の顔を見た途端涙が溢れてしまった。立てなくなってしまった。突然告げられたから受けたショックが大きかったというのもあるのだろう。その時の私は大変感情的になっていて、どうしても冷静さを保てなかった。
ただ、母が話を聞いて温かく見守ってくれたこともあり、三時間も経てば段々落ち着いて。
夜になった今はもう心揺さぶられてはいない。
面白いくらい冷静だ。
もう情緒が激しく揺れることはないし涙が出てくることもない。
カーザンがあんな人だとは知らなかった。まともな人だと思っていた。でも今はもう彼の真実の姿を知った。なので彼への気持ちは欠片ほどもなくなってしまった。カーザンは善良な人ではなかったのだ。結婚しておいて他の女性とも、としないだけ、まだ誠実と言えるのかもしれないけれど。だとしても彼が心ない人であることは事実である。
「さようなら、カーザンさん」
夜の自室で小さく呟いた。
◆
あれから少しして、カーザンとその周りには不幸なことが連発した。
仕事中に脚を痛めていた父親が帰り道馬車に激突されて落命。
父親の件でショックを受けた妹は寝込むようになりずっと寝ていたところ血栓によって死亡。
身内を連続で亡くした母親は正気を失い家の近くの崖から飛び降り奇跡的に死亡はしなかったものの意識不明に。
カーザンは一人になってしまった。
……いや、独り、か。
一方私はというと。
婚約破棄された後に速やかに準備を始めてオープンさせた茶葉の店が大繁盛し、忙しくも楽しく暮らしている。
◆終わり◆




