ちょっとした仕事をしていたのですが、それを知った婚約者が急に激怒し始めてどうしようもない状態となってしまいました。
小遣い稼ぎで短期アルバイトをしていたところ。
「お前! 何をしているんだ!」
婚約者アーノルドに激怒されてしまった。
何も、怒られるようなアルバイトをしていたわけではない。いかがわしい店で働いていたわけではないし、夜間の仕事でもない。健全中の健全、そんなアルバイトをしていただけ。
それなのにアーノルドは悪魔でも見るかのような目で私を見てくる。
「女が仕事など! あり得ん! みっともないぞ!」
「健全な仕事ですよ?」
「そういう問題ではないッ!! ……分からないのか? 女が仕事をしているなど大問題だろうが」
「すみませんがよく分かりません」
「何だと!? 分からないだと!? こんな常識が!? ……まったく、君はどうしてそんなにも非常識なんだ」
女が働くのが大問題、なんていう常識は、特にないと思うのだが……。
少なくともそんな話は聞いたことがない。
「君は馬鹿か!?」
「いきなり失礼ですね」
「聞いているんだ! 馬鹿なのか、と! それすらも理解できないか!?」
「馬鹿ではないです」
「嘘をつくな!!」
「ええっ……」
「仕事をしている女、なんざ、常識がなさすぎるだろう! 簡単な話ではないか、誰だって分かるような。その程度のこと、子どもでも理解している!」
「よく分からない常識を押し付けられても困ります」
「困る、だと? それが事実なら、それが君が馬鹿だからだ!」
アーノルドはこちらが何を言っても「馬鹿」しか言わない。
「君がそんなに馬鹿だとは知らなかった。呆れる。ああ、もう、呆れきってしまった」
他者に対して平気で「馬鹿」なんて言える人間、それこそ常識的に考えて、人としてどうかしていると思うのだが。
「もういい、君との婚約は破棄とする」
「え」
「婚約は破棄だ!!」
やがて終わりを突きつけられて。
「話が通じない女とはこれ以上会話しても何の意味もないからな」
こちらは何も言えないまま。
すべてが終わりへと向かっていってしまう。
「さらばだ」
こうして私たちの関係は終わりを迎えた。
◆
――数ヶ月後。
アーノルドは父の草刈りに付き添って裏山へ出掛けていたところ突如現れた魔獣に襲いかかられ落命した。
一方、私はというと、アーノルドに婚約破棄されてから一ヶ月くらいが経った頃に参加したパンこね大会にて親しくなった男性と交際を開始している。
お互い将来についても考えている。
いずれは結婚するつもりだ。
実際既に二人の間でそういう話も出ている。
私は過去には縛られない。
幸せを掴むため、前を向いて歩く。
◆終わり◆




