お互いが十歳の時に知り合った私たち二人は……。~貴方とのハッピーエンドはないとしても、私はハッピーエンドを求め続けます~
お互いが十歳の時に知り合った私たち二人は、将来結婚するという話になっていて、やがてある程度の年齢になると正式に婚約した。
「アリシアとなら幸せになれる気がするなぁ」
「私も。ロック、貴方とならきっと……幸せに生きてゆける、そう思うし、そう信じているわ」
婚約の日、そんな風に言葉を交わして、笑い合ったこと。
私は今も忘れていない。
たとえどれだけ時が流れようとも。
あの輝かしい時間が消え失せることはないのだ。
――でも私たちは。
「アリシア、君との婚約は破棄するよ」
「どうして……」
「君と生きていく気はなくなったんだ」
「ロック、待ってちょうだい、どうしていきなりそんなこと言い出すのよ。滅茶苦茶じゃない」
――やがて終わってしまう。
「もう君は必要ないんだ。……もっと素晴らしい女性と巡り会えたから」
――そこには幸せな未来も永遠の道もなかった。
「さようなら、アリシア」
信じていたものはすべて呆気なく壊れてしまった。
そしてそれはもう二度と戻らない。
どんなことがあっても取り戻すことはできない。
◆
ロックはあの後間もなく好きになっていた女性と婚約した。
だがその婚約は破棄となってしまう。
というのもその女性が『ロックが私にしたこと』を知ったことでロックという人間の人間性に幻滅し婚約破棄を告げたのだ。
傷心のロックはある大雨の日に私のところへやって来ると「やり直したい」と言ってきた。
その時の彼はもうとにかくボロボロだった。
身も心も。
傷だらけ。
地獄の海からあがってきたかのような状態。
けれども同情することはできなくて。
今さらやり直す気なんて欠片ほどもなかったこともあり、丁重にお断りした。
当たり前だろう? 冷ややかな対応になるのは。そういうものではないか、彼はかつて心ない選択をしたのだから。なぜ身勝手切り捨ててきたような人に同情の眼差しを向けてあげなければならないのか? あの時彼は私の気持ちを考えず勝手な決定をして行動したのだ。そんな人に私の方から優しさを向ける理由がどこにある? 私には彼に親切にする理由なんて一つもない。
ロックがどうなろうとも知ったことではないのだ。
自業自得、そう思うだけ。
◆
あの理不尽な婚約破棄から五十五年。
もうすぐ私は死ぬかもしれない。
だがそれは悲しいことではない。
なんせもう十分長寿なのだから。
ここに来るまでいろんなことがあったけれど、良き夫や子どもたちに恵まれて、とても充実した人生を送ることができた。
今はもう死さえも怖くはない。
だってそれは、幸せに生きた先にある生命の終焉なのだから。
いずれその時は訪れる。その時がいつかはまだ分からないけれど。いつかはその瞬間が来る、それだけは確かなこと。なので、もしその時がやって来たなら、私は安らかに眠りにつこうと思っている。良い記憶、思い出、楽しかったことを胸に抱えながら。定めに従い、この世を去ろう。
――でも、あと、もう少しだけ。
この幸せな日々に感謝しながら今日を過ごす。
◆終わり◆




