私たちは婚約していました。~未来は誰にも分からないものですね~
星は流れる。
何度だって。
そしてそのたびに思い出す――貴方と共にあれたあの日々を。
私たちは婚約していた。
確かに未来を誓い合った仲だった。
だから二人で行く未来は確かに存在するものなのだとそう信じていた。
……あの日までは。
けれど貴方はそうは思っていなかったようで。
あの日、急に私を呼び出してそして告げたの――婚約破棄、その言葉を。
まるで雷に打たれたみたいな。そんな、言葉で表現することが難しいような、鋭さと刺々しさのあるショックだったわ。そんな経験初めてだったから慣れてもいないし。もうとにかく頭が真っ白になってしまって。まるで未来が閉ざされてしまったかのような感覚だったから、私、すべてが終わったみたいに感じたの。その瞬間は、ね。
けれども今は貴方と一緒にいない道で良かったのかもしれないとそう思う。
だって私は幸せになれたもの。
深い絶望の海を越えて、今こうして手にしている幸福があるのだから、貴方と共に在ることが幸せのすべてではなかったのね。
支えてくれる人たちがいたというのも大きかったけれど、ここまで歩いてきたからこそ今の幸福があるのだと考えるなら、貴方と隣り合っていたままではきっと今のこの景色は見られなかったのでしょう。
噂によれば貴方はもうこの世にはいないようだけれど。
きっと……何かとても不幸なこと、辛いこと、身も心も痛むようなことがあったのでしょうね。
ああ、人生とは、この世界とは不思議なものね。
誰が幸せになるかは歩いていってみないと分からない。
幸せになりそうな人がそうならないこともあれば、不幸になってしまいそうな人が幸せを掴むこともある。
それは、人間の想像力や予想力だけではまだ到底踏み込めない領域ね。
なんにせよ、歩み続けることが大切なのかしら?
ある意味それを教えてくれたのは貴方。
貴方が身勝手に理不尽に婚約破棄してくれたから今の幸せがある。
だから少しは感謝しているわ。
◆終わり◆




