十八歳になった夏の日、親が決めた相手と婚約したのですが……?
十八歳になった夏の日、親が決めた男性ロバートと婚約した。
この国では女性は大体十八くらいには婚約者を作る。
なので私もそれに従った。
相手を決められていた、とはいえ、嫌なのに無理矢理押し付けられたというほどのことではない。
誰もがそういうものだと思っているのだ。当然、それは私も例外ではなく。決められた男性と婚約するということを当たり前のこととして受け入れていた。誰もがそうしてきたのだしそういうものなのだ、そう思っているから。何の疑問も持たず彼と婚約した。
だがロバートは私を嫌っていたようで。
「君は本当に救いようのない無魅力な女だな」
「え……あ、は、はい、すみません」
「僕の婚約者に相応しいと本気で思っているのか?」
「その質問は……意味が、少し、分からないのですが」
「分からないだと!?」
「……ッ!」
「ふざけるな! 言葉の意味も分からない馬鹿女の分際で僕と婚約したというのか!? 僕をはめたのだな!? ふざけるなよ! 馬鹿だから僕に寄生したかったのか!!」
出会ってから間もない頃でさえそんな心ない会話が何度も繰り広げられていた。
それほどに愛されず。
とことん失礼な言葉をかけられて。
正直心が折れそうで、けれども逃げ出すこともできず、ただ耐えていた――が、そんなある日のこと。
「君との婚約だが、破棄とすることにした」
ロバートは突然そんなことを告げてきた。
あまりにもいきなりのことで驚いて。
けれども真っ直ぐに彼へ目をやる。
彼が私と離れたいと言うのならそれはそれで良いことかもしれない。少なくとも、私にとっては負の意味を持つ展開ではない。なぜなら私としても彼と永遠に一緒にいたいと思っているわけではないからだ。お世辞にも良い関係とは言えないような私たちの関係だから。終わってしまうなら終わってしまうでそれはそれで問題ないかなとも思うのだ。
「なぜなら、君には魅力がないからだ」
彼は平然とそんなことを口にする。
「僕と共に生きるならそれに相応しい魅力的な女性でなければならない。君はその条件から大幅に外れているだろう? そういう意味で、君は僕の隣にいるのに相応しくないと思ったのだ。ゆえに関係を終わらせることに決めた」
相変わらずなロバートは容赦ない言葉を並べてくる。
「ということで、さよならとしよう」
でももういいのだ。
さよならでも構わない。
なぜなら、私も彼を大切に思っていないから。
「そうですか……残念ですが、分かりました」
終わりはいずれ訪れるものだ。
「さようなら、ロバートさん」
だからその終わりが今だとしてもそれもまた運命であると受け入れよう。
◆
あの後、少しして、ロバートの死についての連絡があった。
ロバートはある冬の日に風邪を引いたそう。ただそれだけならよくあることだった。しかしその時のロバートはあまり健康でない状態であって。ゆえに風邪をこじらせて肺を悪くしてしまった。で、その影響で呼吸に問題がある状態となってしまい、やがて落命してしまったそうだ。
彼の最期は不思議なくらい呆気ないものであった。
◆
婚約破棄から数年、私はロバートではない別の男性と結婚し幸せになった。
今はとても穏やかに暮らせている。
なのでこの道を選んで良かったと心の底から思うことができている。
この先もきっと、生きていれば、いろんなことがあるだろう。だがそれでも、一つ一つ乗り越えてゆこうと思う。歩みを止めさえしなければきっと明るい未来へたどり着ける。だから前向きに生きてゆきたい。
◆終わり◆




