女連れで婚約破棄したうえいちゃつく姿を見せるなんて……さすがに酷すぎますね。
前々から感じが悪く、しかも幼馴染みだというリリーナとかいう女ばかり可愛がっていた婚約者エーデルガーが、ある日の晩餐会にて。
「貴様との婚約、破棄とする!!」
そんなことを宣言してきた。
しかも、隣にリリーナを置いた状態で。
「エーデルガー様、本当にいいんですかぁ……? リリーナなんかのためにぃ……」
「いいんだ」
「でもぉ……リリーナのせいでぇ……」
「リリーナ、お前は何も悪くないよ。悪いのはダサくてみっともないこの女だけだ」
「えぇ~? それはちょっとぉ……酷くないですかぁ~?」
私の目の前で堂々といちゃつくエーデルガーとリリーナ。
「真実だから仕方ない。……ああ、それよりも、リリーナと早く結ばれたい」
「んもぉ~、エーデルガー様ったらぁ貪欲ぅ」
「キスしてもいいかい?」
「うそぉ、こんなところでぇ?」
「させてくれ」
「……もぉ、仕方ないですねぇ、いいですよぉ? どうしてもっていうならぁ……」
しまいに二人は唇を重ねた。
理解不能な展開を目にして硬直してしまっていると、急にエーデルガーに睨まれる。
「貴様、いつまで見ているつもりだ」
「あ……」
「捨てられた女はさっさと消えろ」
そうだ、私はもう捨てられた女になってしまっているのだ……。
「酷い男ね、こんなところで婚約破棄するなんて」
「しかも女連れとかないわー」
「あり得ないわ、酷すぎよね。あんなやり方って。公開で、とか、悪魔」
「はあぁ……ひでぇ、ひどすぎぃる……。ありゃ、地獄に落ちるべきすなぁ」
私に居場所はない。
黙って去るしか道はない。
その日私は晩餐会を早退した。
◆
あれから三日。
意外なことだが、エーデルガーとリリーナはこの世を去った。
エーデルガーとリリーナは晩餐会の帰り道に事故に遭い、二人まとめて落命することとなったのだった。
同時に死ねたことは幸せだっただろうか? ……いや、それでも、死は死だ。生きていればいちゃついたり遊びに出掛けたりできたのだから、死が幸せなものであるはずがない。二人で死ねたから幸せ? そんなことはないだろう。この世から去ることを望んでいたならともかく。そうでない者が二人で死ねたから良かったなんて思うはずもない。
それは私にとって唯一の救いとなった。
◆
あの婚約破棄から数年、私は、この国の第二王子である青年と結婚した。
夫となった彼は少々臆病なところのある人だ。
けれども静けさの中にも包み込むような優しさを持っている。
彼は他者の心を見ることができる人。
だから私は彼のことが好きなのだ。
◆終わり◆




