目を覚ますや否や父親から婚約者が呼んでいるらしいと言われ、彼のところへ向かったのですが……?
空は高く、腕を伸ばせば天まで届きそうなほど。
澄み渡った青が聖母のような眼差しで人々をこの世界をそして私を見下ろしている。
――ありふれた、それでいてとても爽やかな、そんな朝。
目を覚ますや否や父親から「ロッキーくんが呼んでいるらしいよ」と告げられて、彼のところへ向かうこととなった。
ちなみにロッキーというのは私の婚約者である男性の名である。
「来てくれたんだね」
ロッキーはいつもと変わりのない様子で迎えてくれた。
急に呼び出された時は何がどうなっているのか意味が分からず悪い想像ばかりしてしまって憂鬱になっていたのだけれど、どうやら嫌な展開になるわけではなさそうだ――なんて思ったのは一瞬で。
「君との婚約だけど、破棄することにしたから」
予感は当たった。
当たってしまった。
……こんな予感、当たらなくて良かったのに。
「好きな人ができてさ」
「それが婚約破棄の理由ですか?」
ロッキーは私より三つ年上。
艶のある美しい肌が特徴的な男性だ。
「うん、そうなんだ」
「ええ……」
「急に言ってごめんね。でも事実だから。本当のことを言う優しさ、っていうのも、この世にはあるものだよね。そう思って、だから、本当のことを隠さずすべて君に伝えることにしたんだ」
「そ、そう……なんですね……」
ロッキーは見たことがないくらい笑顔だ。
「僕は絶対幸せになる。だから見守っていてね」
えええー……。
そんなこと言われても。
はい幸せになってください、なんて、そんなことをすんなり言うのは難しい。
「今までありがとう」
こうして私は婚約破棄されてしまったのだった。
その話をすると両親は大変驚いていた。
父は眼球が飛び出しそうなほど目を剥いて「ぎょぼえええええ!! うっそおおおおお!? うっそおおおおお!?」などと発してしまっていたし、母も青い顔をして「そんなことって……」とこぼしていた。
だが仕方ないことだと思う。
問題が発生していたわけではない。
揉めていたわけでもない。
険悪になるような出来事があったわけでもない。
それなのにいきなり婚約破棄なんて。
誰もそんなことは想像しないだろう。
嘘みたいな本当の話だ。
脳が完全に理解するにはまだ少し時間がかかる。
◆
――あれから二年が過ぎた。
私は今、王子の妻となっている。
ロッキーに婚約破棄を告げられた直後の週末、家の庭から金塊が大量に見つかった。その量はかなりのもので。突如金塊持ちとなった私たち一家は、富に恵まれることとなり、さらにはその評判によって王子から見初められた。
そうして王子の妻という位に就くこととなったのだ。
人生とは分からないものだなぁ、と、本当に心の底から思う。
だって不思議過ぎるではないか。婚約破棄され落ち込んでいたところに奇跡みたいなことが起こって、裕福になって、しかも王子に愛されるようになるなんて。もし他人としてその話を聞いていたとしたら、きっと、少しの迷いもなくそんなことあり得ないと思っただろう。絵本の中の世界でだってそこまでの嘘みたいな出来事は滅多にないのだから。
で、ロッキーはというと。
あの時言っていた好きになった女性と結婚したそうだが、数日前、家の近くで二人歩いていたところ凶暴化していた女性の元恋人に襲われたそうで――その際に負った傷が原因となり落命してしまったそうである。
◆終わり◆




