私たちならきっと幸せな未来を掴める、そう信じていたのですが……?
「やぁミリーナ、久しぶりだね」
「そうですね」
「元気にしていたかい?」
「はい。アルフレットさんこそ、お元気でしたか」
「僕は元気だよ」
「それは良かったです」
私ミリーナと二つ年上の彼アルフレットは婚約者同士。
出会いこそ家と家の関わりだったのだけれど、そこから徐々に親しくなって、やがて婚約するに至った。
「今日も良い天気だね」
「そうですね」
「ミリーナは晴れの日好き?」
「はい、好きです。アルフレットさんはどうですか?」
「僕も好きだよ」
「そうなんですね!」
「一緒だね」
「はい。同じで嬉しいです。共通点が見つかった時って何だか嬉しくなるものですよね」
「確かにね」
私たちならきっと幸せな未来を掴める。
迷いなくそう信じていた。
「あ、そうだ。話なんだけど。ちょっといいかな」
「何でしょうか」
――その、瞬間まで。
「君との婚約だけど、破棄することにしたから」
アルフレットは柔らかな笑顔のままさらりと述べる。
「え……」
思わずこぼれてしまう情けない声。
「ミリーナはさ、僕のことそんなに好きじゃないでしょ」
「どうしてですか!? 好きですよ!!」
「でも、好きじゃないよね?」
「好きです!」
「……だとしても、ごめん。僕は君のこと、そこまで好きじゃないんだ。嫌いでもないけど。だから……関係はここまでとさせてもらうよ」
愕然としているうちに、彼は去っていってしまった。
あまりにも突然の終わり。
言葉を失うことしかできない。
◆
あれから数日。
アルフレットの訃報が届いた。
彼は女性と二人でお出掛けしていたそうなのだが、お出掛け先で急に体調を崩し、病院へ運ばれるもそのまま落命することとなってしまったそうだ。
結局原因は不明のままらしい。
なんということだ……。
こんな急に亡くなるなんて……。
ただ、今の私はもう彼の何でもないので、悲しむ必要はない。
婚約者の急死であれば悲しむのが普通だろう。だが元婚約者の死となればまた別の話で。かつて婚約していた、というだけの私だから、彼の死に涙する必要などありはしないのだ。
◆
「それでね、クッキーを焼いたんだけど、爆発しそうになって~」
「ええ!?」
「でも何とかなったよ」
あれから一年。
私は近く結婚する予定だ。
「完成したの?」
「美味しくできたよ~。ミリーナにも食べてほしいな」
「いつかいただくわ」
「って言ってもらえるかなって思って、持ってきたんだ~」
結婚する予定の相手、彼は三つ年上なのだが、少々抜けたところのあるような人物である。
おっちょこちょいだし。
おっとりしているし。
けれどもそんなところも含めて愛らしいと思えるような人だ。
「ほら~」
「わぁ! とっても綺麗ね! 上手じゃない」
「えへへ~」
「食べてみて良いのかしら」
「もちろんだよ」
「じゃあ……早速、いただくわね」
「わぁ~い。ミリーナに食べてもらえるなんて嬉しいな。嫌がられるかもってちょっと不安だったんだよ~」
どんな時でもにこにこしている彼となら、きっと、のんびりとした穏やかな幸福を堪能できるだろうと思う。
「……美味しい!」
「ほんと~?」
「ええ、とっても! 爆発しかけたのにこの美味しさって、凄い!」
「嬉しいな」
「貴方ってほんとお菓子作るの得意ね」
「えへへ、照れるな~」
過去は捨てて。
未来へと手を伸ばす。
それが私の人生、生き方だ。
◆終わり◆




