二人が結婚する、それを条件に彼の実家にうちの家が支援を行うこととなっていたのですが……。
事情があって、親同士の話し合いを経て、私リリーと二つ年上の彼アムステは婚約した。
二人が結婚する。
それを条件にアムステの実家にうちの家が支援を行う。
そういう話での婚約だったのだが――いざ婚約してみるとアムステはたびたび心ない言葉をかけてくるようになった。
「リリー、君は僕には相応しくないよね。女性として駄目駄目だよ」
「え?」
「聞こえなかったのかい? だ、か、ら、君は駄目な女だって言ってるんだよ。つまらないし、馬鹿だし、加えて耳まで悪いのかい?」
アムステは平気でこういうことを言う。
「君ってさぁ、僕に好かれようと本気で思ってる?」
「え、と……嫌われたい、とは、思ってはいませんけど……」
また、自分の家が支援にしてもらっている側にも関わらず、なぜか自分の方が偉いと思っている節があって。
「ほら! そこ! そこが出てるんだよ。嫌われたいとは思っていない、ってことは、好かれようと思っていないってことだよね!」
「すみません、まだ、よく……分かっておらず」
「そういうところが駄目なんだよ! 君は! 婚約者に対してはもっと媚を売らないと。それが女の努力ってものなんだよ」
私の態度があっさりしているというだけで不満を募らせている様子。
「リリー、君さぁ、ほーんと女として終わってるよね」
「え」
「終わってるんだよ! 君は!」
「あの……傷つきます、そういうことを言うのはやめてください」
「はああ? 事実だろおお?」
それでも最初が我慢していた。
時にはこういうこともあるのだとそう思うように努力して。
だが段々耐えられなくなってくる。
会うたびにごちゃごちゃと失礼なことを言われるのだ、いつまでも我慢してはいられない。
私にだって心はあるのだ。
でもそれを彼は理解していない。
――もう無理だ。
やがて覚悟を決める時が来た。
「アムステさん、私、貴方とはもうやっていけません」
両親との話し合いも経て。
「ですので、婚約は破棄します」
決定を告げる。
「な、なな、なぜ!?」
「アムステさんはいつも私のことを悪く仰いますよね。理不尽なこと、失礼なこと、そういうことばかり仰るではないですか」
「ふ、ふざけるな! 婚約破棄!? ふざけるなよ!」
「そうやって心ない言葉をかけられることにもう耐えられなくなったのです」
私とて滅茶苦茶なことをされていつまでも我慢していられるほど強い人間ではない。
「さようなら、アムステさん」
――もう貴方とは関わらない。
「ふ、ふざけるな! ふざけるなよ! ふざけやがって! これだから女は嫌なんだ、ちょっとしたことで不満抱いて、大袈裟に騒ぎやがる……認めない! 婚約破棄など! 絶対に認めないからな!」
――今さら慌てても遅いのよ。
◆
あれから二年半。
私は一人の好青年と結婚した。
彼との出会いはとあるカフェであったが、後に彼の家柄が良いことが判明したこともあり、無事結婚を認めてもらうことができた。
彼はとても爽やかな人。そして太陽のような人でもある。また、思いやりのある人で、アムステとは真逆のような人物であった。
どんな時も心地よい雰囲気を作ってくれるので感謝している。
ちなみにアムステはというと。
あの後我が家からの支援が経たれたことで親と大喧嘩になったらしく勘当されてしまったそうだ。
で、今は、アムステは行方不明となっているらしい。
彼は親からさえも捨てられた。
孤独の海を泳ぐしかないのだ。
アムステが今どんな風に生きているかは分からない。
ただ、親から勘当され居場所もない、そんな状態で幸せに暮らせていることは常識的に考えてないだろう。
だがすべては彼のこれまでの行いが生んだ結果。
原因は彼だけにある。
彼はこの先ずっと誰からも見捨てられた人間として生きてゆくのだ。
◆終わり◆




