「君ってさぁ、可愛くないよねほんと」そんな発言がいきなり飛び出して、驚くと共に戸惑いましたが……。
「君ってさぁ、可愛くないよねほんと」
婚約者ルフレッドはある日突然見知らぬ女性を連れて私の前に現れた。
「見て? 彼女。とっても可愛いよね? 謙虚だし、可憐だし、花のように美しくて魅力的だよね」
「え……っと、あの、何のお話でしょうか」
「彼女はさ、ミリーっていうんだけど、僕がこの世界で唯一愛している深く想っている女性なんだ」
ルフレッドに腕を回された女性――ミリーという名らしいが――その人は、恥ずかしそうな照れ笑いをしている。
だが、こちらとしては、いきなりそんなことを言われても困ってしまう。というのも理解が追いつかないのだ。ルフレッドがミリーを愛している、ということは分かったけれど。婚約者に対してそんなことを言って、一体何がしたいのか。
「君の魅力はミリーの百万分の一以下だよ。君本当に女性? って聞きたいくらい」
ルフレッドは平然とそんなことを言い放ってくる。
なんと心ない人なのだろう……。
しかも失礼だし……。
ミリーへの想いが彼をそんな風にしてしまったのだろうか。
「だって君は、謙虚じゃないし、可憐さもなくどちらかというと逞しいくらいだし、花のような美しさもない。君はどんな時も力強いけど、それって女性としては終わってるってことだよね」
ルフレッドの失礼な発言はまだまだ止まらない。
「女性なら雨の日も風の日もどんな日も可憐であるべきだよね? それができないってことは、努力が足りないんだよ君は。君は基本的にすべてにおいて努力不足なんだ。しかも余計なところだけ頑張っているからなおさらイタいよ。女性として終わってるのにさ、勉強とか頑張るとか、ますます終わるだけだよ? 勉強が好きな女なんて、男からしたらただのごみだよ?」
彼は散々私を悪く言って、そして。
「てことで、君との婚約は破棄するから」
その果てに。
ついにそこまで言いきった。
彼はすべてを終わらせることを宣言したのだ。
「永遠にさよなら」
彼が私にかけた終焉の言葉はそれだった。
「ミリー、これで僕たち、一生一緒にいられるよね」
「うん」
「嬉しいよね? ミリーも嬉しいよね?」
「うん~」
「僕、君のことが好きで好きで、だからずっとこの時この瞬間がやって来るのを楽しみにしていたんだ。あんな変な女さっさと捨てたかった。……ここまで、少し時間がかかってごめんね? 待たせてしまって」
「うんうん」
「でもこれでもうあの女とはバイバイできたから」
「うん」
「これからは僕たち、正式に、ずっと一緒だよ」
「うん~」
「嬉しいよね? ミリーも。ミリーも喜んでる?」
「うん」
◆
あの後、ルフレッドとミリーは婚約したが、それから少しして二人は離れることとなった。
というのも、ミリーはなぜか「うん」以外のことを絶対に言わない女で、ルフレッドが段々それに怒りを抱くようになったそうなのだ。
返事しかされないと、特定の単語しか返ってこないとなると、会話が最低限しか成り立たない。それにルフレッドは苛立ったようで。次第に二人の関係にひびが入り始めたのだそう――もっとも、ルフレッドのミリーへの想いが冷めた、という表現の方が正しいのだろうが。
あんなに色々言っていたけれど、ルフレッドはミリーを選んでも幸せにはなれなかった。
彼に幸せな未来はなかった。
また、その年の冬、ルフレッドは流行り病に倒れる。
酷く熱を出し。
三日三晩悪夢にうなされ。
その果てに、衰弱して、彼は落命してしまった。
ちなみにミリーは実家へ戻って親と暮らしているそうだが今も「うん」しか言わないままだそうだ。
一方私はというと。
勉強でこれまでに身につけた知識を活かし、今は仕事に打ち込んでいる。
なんだかんだでこの道が私には合っていると思う。
◆終わり◆




