元々あまり良い感じの人ではなかった婚約者から婚約破棄を告げられましたので、これを機に自由になります!
ことあるごとに嫌みを言ってくる。
周囲にたびたび私についての悪口を言い広める。
――そんなことをしていた婚約者ルイオスだったのだが。
「悪いが、君との婚約は破棄とする」
ある日突然そんな風に宣言してきた。
「婚約破棄、ですか」
「ああそうだ。理由は一つ。君がくだらない女だからだ」
溜め息が出てしまいそうな理由を告げられて、元よりあまりなかった彼への感情がさらに引いてゆく。
私はなぜこんな人と婚約しているのだろう? なんて考えてしまうほどに、今の私は彼の良いところを見つけられない。
もっとも、思い返してみればずっとそんな感じではあったのだが。
「僕のような素晴らしい男にはもっと素晴らしい魅力的な女性こそが相応しい、ので、君との関係はここでおしまいとすることとした」
「そうですか……」
「分かったな?」
「何だか勝手な感じの理由ですね」
「うるさい! 余計なことを言うんじゃない!」
「はい」
「まぁいい。そういうことだ。よって、僕たちの関係はここまでだ。今後君が僕の前に現れるようなことがあったら――犯罪者として突き出すので気をつけるように」
……なんのこっちゃらである。
「まぁ、君のことだから、きっと良いパートナーは得られないだろうが。そんなことはどうでもいいことだ。僕を怨まないでくれよ? ではな、さよなら」
こうして私はルイオスに切り捨てられてしまったのだった。
――だがこれは不幸な出来事ではない!
今は素直にそう思う。
だって私を傷つけていたのは彼なのだから。
婚約を破棄する、なんていう発想はなかった。でも、よくよく考えてみれば、これまでこの胸に重苦しいものを作っていたのはいつも彼の存在だった。嫌なことを言われたり言い広められたりと。ということはつまり、彼がいなくなってくれるだけで私の胸には涼やかな風が吹き込んでくるということ。解放感と共に訪れる新しい季節はきっと私にとって悪いものではない。
◆
あれから数ヶ月。
たまたまこの国へ旅行に来ていた隣国の王子が体調不良になっていたところに偶然出くわし助けたことで見初められた私は、彼と結婚する方向で動くこととなった。
というのも、彼の方からそういった希望があったのである。
最初他国へ嫁ぐということにはそこそこ抵抗があったのだけれど、彼の優しさや面白さに触れるうちに段々それもいいなと思えるようになってきて、それで彼と生きる道を選ぶ決意を固めていったのだった。
今は二国間を行き来しながら生活している。
私は純粋に王子のことを愛している。
王子もまた私を大切にしてくれている。
私たちの未来は明るい。
一方ルイオスはというと、あの後少しして可愛い系の美人さんである女性にいきなりプロポーズするも断られてしまったようだ。だがそれを信じたくなかったルイオスはいつまでも女性につきまとった。で、その結果、女性の父親に激怒され警察へ突き出されたらしい。
ルイオスは犯罪者となってしまったのだ。
彼は今、牢屋の中にいる。
毎日冷えきった不味い食べ物しか口にできていないはずだ。
◆終わり◆




