婚約者に珍しく呼び出されたと思ったら、婚約破棄を告げられてしまいました。~貴方の行い、世にばらしますね~
「お前なんてなぁ! もう要らねぇんだよ! 分かるか? お前みたいなぱっとしねぇし忠義もねぇ女なんざ、俺には不要ってこった! いいか? この婚約破棄はそういう意味だ! ちゃんと理解しろ!」
ある日のこと、婚約者ウィリウッドに珍しく呼び出されたと思ったら、婚約破棄を告げられてしまった。
なんということ。
あまりにも急過ぎる。
婚約破棄、それは二人の人生に大きな影響を与えるものだ。つまりかなり重大なこと。普通な感じで呼び出して告げるような内容ではないのだ、本来は。
取り敢えず、こっそり録音魔法を使っておいている。
「本気で仰っているのですか? 婚約破棄なんて……」
「ああ? 馬鹿にしてんのか! お前、どこまで俺を愚弄すれば気が済むってんだ!」
ウィリウッドはいつもこうだ、彼が言っていることと少しでも違うことをこちらが言うと汚い言葉づかいで圧をかけようとしてくる。
汚い言葉を使えば、高圧的な言い方をすれば、他人は言いなりになるものなのだと彼は思っているのだ。
「いいから去れやボケェ!!」
――彼の悪しき発言たちは録音できた。
「分かりました。婚約破棄ですね。……では、さようなら」
私は受け入れてその場から離れた。
でも、このままでは終わらない。
彼の心は要らない。
もう一度婚約者同士に戻りたいとも思わない。
けれども、酷いことを言ったことや無礼な態度を取っていたこと、そういったことをおとがめなしで終わらせてあげるつもりは一切ない。
私に無礼なことをしたこと、後悔させてあげよう。
翌日からさっそく動き出す。
録音したウィリウッドの声を親の人脈を利用して新聞社に渡してそれを社会へ広めてもらう――そして、彼が何をしたのかも、同時に世に公開してもらった。
それによってウィリウッドの評判は急落。
勤めていた会社の社長に嫌われ失職させられ、異性の知り合いからは酷い男として冷ややかな視線を向けられるようになり、さらには友人なども多数が彼から離れていった。
そうして彼の周りには人がいなくなる。
そんな状態ではもちろん結婚相手探しも上手くいくはずもなく、彼が気に入った女性にそういう話を持っていっても軒並み断られるようになったようだ。
ウィリウッドの人生はあれよあれよという間に崩壊していった。
そして最終的には親からも見放され、ある意味乞食のような行為をして生きていくほかない状態にまで彼は堕ちていったようである。
普通に生きていた。
それなりに恵まれていた。
かつてのウィリウッドはもうこの世界には存在しない。
こうして彼への仕返しは終わったのだった。
◆
「お茶を淹れたわ」
「わ! え、いいの? ありがとう!」
あれから数年が経った。
私は今、実家からそう離れていない地域に建てた家にて、愛する夫と共に穏やかに暮らしている。
「好きでしょう? このハーブティー」
「あ! それ! 僕の一番? いや、かなり、凄く好きなやつ!」
「前淹れた時喜んでくれていたから」
「覚えててくれたんだ!?」
「当然よ、覚えているわそのくらい。当たり前じゃないの。夫の好きなものよ? 覚えているに決まっているじゃないの」
夫は経済的に裕福な人、そして、広い心を持ったとても善良な人物だ。
「そっかぁ、嬉しいな。ありがとう」
「美味しく淹れられているといいのだけれど」
「飲んでみていい?」
「もちろんよ」
「じゃあ貰うね。飲んでみる。いただきます」
私はもう過去は振り返らない。
だってそこには希望の光や楽しい記憶はないから。
求めるのは、明るい未来だけ。
――そう、それは、夫婦でこれから手に入れるもの。
◆終わり◆




