とある晩餐会にて婚約破棄宣言されました!? しかしそこへ一人の青年が現れて……。
とある晩餐会にて。
「フェリーチ、貴様との婚約は破棄とする!!」
新興貴族の家の出である婚約者ルフトレッドからそんな風に宣言されてしまった。
あまりにも突然のことで、婚約破棄と大声で言われてもなお、ただきょとんとしている外ない。
「貴様など誰からも愛されない女だ! どうせ、今後も誰からも愛されないだろう! 俺だけが付き合ってやっていたのだからな、ははっ」
ルフトレッドはそんなことを言っていたけれど。
「すみません、少しよろしいでしょうか?」
「え。あ、はい」
「貴女がフェリーチさんですね」
「はい、そうですけど……えっと、どうかなさいましたか?」
その晩餐会中に一人の青年に話しかけられて。
「僕と婚約してはくださいませんか?」
しかもそんなことまで言われてしまった。
「なになに? 面白いやつ? うわぁ、気になる展開ぃ」
「次の男出てくるパターンとか熱いね~」
「それなそれな」
「わくわくしてきたぞーい」
「どうなるんだろ!? これ!? ワクワクドキドキドッキンコ!?」
まさかの展開に戸惑っているのは私だけではない。周囲にいる晩餐会参加者の人たちも想像できないような話の流れに心を揺さぶられている様子だ。徐々に注目度が高まってきているのを肌で感じる。
「えっと、その……あまりにも唐突で、戸惑っています」
私はそう返すことしかできなかったけれど、会場を抜けてお茶をしたいという彼の提案には乗ることにした。
――で、その会はとても楽しかった。
エンドリウスと名乗る彼は歴史ある家柄の出の青年であった。
けれども家柄から想像するような重苦しさはない人物で。誠実さをにじませた瞳とほどよく心地よい会話術、そんなところに魅力を感じさせてくれる良き男性。若くとも凛とした空気をまとっている紳士であった。
「よければまた、僕と、こうして会っていただきたいのですが」
二人でのお茶を楽しむ時間の終わりに、エンドリウスはそんな提案を出してくる。
「もちろんです」
今度ははっきり頷くことができた。
なぜなら今はもう彼の良いところを知っているからである。
彼と同じ時間を過ごすことへの躊躇いは、もうない。
「本当ですか……!」
頷けば、エンドリウスは瞳を輝かせて喜んでくれる。
「今日はとても楽しかったです。なのでぜひまた一緒にお話したいです。お茶も色々飲みたいですね」
「それは良かった」
「でも……エンドリウスさんは私が相手で構わないのですか? もっと色々な女性との方が楽しいのでは」
「いえ!」
「え」
「僕は貴女とが良いのです」
以降も積極的なエンドリウスに誘われるようにして関係を深めてゆき、その果てに私たちは婚約、そして順調に話は進み――やがて結婚した。
◆
結婚後も私たち二人は仲良しなままでいられている。
いろんなところへ行ったり、美味しいものを食べたり、様々な経験を共に重ねたり――そうやって生きていく中で私たちの絆はより一層深まってゆくのだ。
多くの経験を積んで。
けれども最初の心、思いやりを忘れずに。
そうやって歩めているからこそ私たちは確かな絆と共に夫婦として生きることができている。
これからもエンドリウスと共に様々なことを経験していきたいと思っている。彼とならどこへだって行ける、そう信じられるからこそ、未来への不安はない。
生きていれば時に辛いこともあるかもしれない、でも彼となら。
真っ直ぐにそう思えるのだ。
ちなみにルフトレッドはというと、とある宿屋で出会い恋仲となった女性にそそのかされて違法薬物の売買に関わってしまったために逮捕され現在は牢屋暮らしだそうだ。また、一年以内での処刑も決まっているらしく、彼にはもう明るい未来はない。ルフトレッドの命、それは、長くともあと一年の命である。
◆終わり◆




