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婚約者が婚約破棄してきました。どうやら双子の妹に乗り換えるようです。~生きていれば色々ありますが必ず幸せになってみせます~

「お前との婚約は破棄とする!!」


 その日は信じられないくらい突然やって来た。


「そして俺は生きるのだ、お前ではなくお前の双子の妹である彼女ブリュッシーナと!!」


 婚約者エルメットの口から出てきたのは信じられない言葉。

 そう、彼はいつの間にか、私の双子の片方であるブリュッシーナとそういう仲にまで発展していたのだ。


「そもそも俺はお前を好きだったわけじゃない。ブリュッシーナに顔が似ているからお前で妥協しようとしていただけだ」

「つまり……目的は顔だけだったということですね」

「ああそうさ! ブリュッシーナはモテモテだったからな、無理だと思っていたんだ。だからせめて顔だけでも、と思って。それで俺はお前と婚約したんだ」


 それは失礼過ぎる……。


 私など人として見られていないということ?

 私という人間はただの彼女と似た顔を持つ存在でしかないということなのか?


「だがブリュッシーナと仲良くなれた。となれば、お前の存在意義はなくなったのだ。分かるか? 俺からすれば、お前はもう要らないんだ」

「よくそのような酷いことが言えますね」

「はぁ? 酷いこと? 馬鹿か。酷いことじゃない、これはいたって普通のことだ。真実を言っているだけだろう」

「そのように言われて、人が傷つくとは思わないのですか?」

「図星だから傷つくだけだろう。つまり、自業自得というやつだ」


 エルメットは本当にブリュッシーナのことしか見えていないようだ。


 そんな人と一緒にいても不幸になるだけ。

 ならばもうここで終わりにしてしまう方が良いのかもしれない。


「分かりました。では、受け入れます。婚約破棄で構いません」

「ようやく諦めたか」

「さようなら、エルメットさん」


 その後私はエルメットが何を言って婚約破棄したのかを知り合いに端から言って回った。

 それによってエルメットの評判は地に堕ちる。

 彼は町を歩くだけでもひそひそ言われるところにまで堕ちた。

 まさに転落――彼は誰からも冷ややかな目を向けられるような人間になってしまったのだ。


 また、双子の姉の婚約者を奪う形となったブリュッシーナも、社会からの厳しい批判に晒されることとなる。

 彼女もまた、皆から悪口を言われたり友人に縁を切られたりといった自業自得ではあるものの悲劇に見舞われることとなっていった。


 そんな中で迎えたエルメットとブリュッシーナの結婚式にはほぼ誰も来なかった。

 開催をお知らせする手紙は出していたようだが、親くらいしか参加せず。その他の者たちは皆揃って「見たくない」と言い式への参加を拒否したのだった。


 そんなこともあって生きる希望を見失ったブリュッシーナは、結婚後間もなく自ら死を選んだ。


 一方エルメットはというと、ブリュッシーナの死後また私に近づいてきて「やり直そう」とか「やっぱりお前が好きだ」などと言ってきたけれど、都合が良すぎて気持ちが悪いので「二度と近寄らないでください」とはっきり言ってやった。


 それから少しして、エルメットは私を路上で刺し殺そうとしたが、通行人が止めに入ってくれたことで悲劇は免れた。また、その一件によってエルメットは牢屋送りとなり、それから半年も経たないうちに処刑されたのだった。



 ◆



「そっかぁ、それは災難だったねぇ」

「ええ……。自分で言うのも何だけれど、あの頃はちょっと……正直大変だったわ。なんというか、色々あって……」


 あれから数年、私は今、最愛の人と共に暮らしている。


「そうだよね、そうだろうと思うよ。大変だよ、そんなの」

「ごめんね? こんなつまらない話を聞かせて」


 夫はまったりした人だ。

 肌がマシュマロみたいで触り心地は最高。


 加えて、性格も良い。


 個人的にはこれまで出会った男性の中で一番包容力のある人だと思う。


「いやいや! 大事なことだよ! それに、妻になった人の過去のことだからさ。知っておきたいよ。大切なことだから」


 私のつまらないくだらない話も彼はいつも真面目に聞いてくれる。

 そんな彼の優しさにはとても支えられている。


「……ありがとう」


 返せる者は多くはないけれど。

 でもこれまで色々なところで支えてもらってきたからその恩返しがしたくて。


 少しずつでも返していこう。今はそう思っているところだ。


「辛いことだろうに話してくれてありがとうね」

「いいえ、礼を言うべきはこちらよ」



◆終わり◆

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