「君はこの世界に必要ない」婚約者を殺そうとするのはどうかと思いますよ! 悪質です!
「君はこの世界に必要ない」
婚約者ローダンにウミミエル公園に呼び出された私は。
「だから死んでくれ」
彼に突き飛ばされて。
「婚約は破棄するから――さよなら、ミハイレーナ」
柵を越えて落ちてゆく。
この高所から転落すれば命はない。
きっと私はこのまま死ぬこととなるのだろう。
◆
ローダンに殺されかけた私だったが海の神によって救われた。
神の懐に抱かれた私は無事だった。
生きる死ぬといった問題ではなく一つの傷さえ負うことはなかった。
その後私は神から贈り物として大金持ちの息子を与えられた。
『君はその男と幸せになるがいい』
別れしな、神はそう言っていた。
◆
あの後、数週間ほどが経った頃、ローダンはこの世を去った。
台風の日だった。
彼は近所の川が増水しているか気になって様子を見に行き、大量の水に呑み込まれ流された。
そのまま行方不明に。
結局亡骸すらも見つけてもらえないままで皆からは亡くなったと理解されることとなってしまったのだ。
もっとも、彼が亡くなったことは事実だろうが。
さよならも満足に言えないままこの世を別れる――どんな気持ちだろう。
でも自業自得だ。
だって多くの人が常々「台風の時は川を見に行くな」と繰り返しているのだから。
なのに彼は見に行ってしまった。
その時点で落命してしまったとしてもほぼ自業自得ではないか。
◆
「今日も良い天気ね」
「うん!」
私はあの時神に与えられた男性と結婚した。
「ミハイレーナさんは晴れが好き?」
「ええ! 好きよ」
「そっかぁ、なら今日みたいな日はちょうどいいね」
「そうね、心が軽やかになるわ」
二人の関係は良好。
彼と共に歩めるならきっと幸せな未来へと行けるはず。
「良かったらだけど……今日、ちょっと、一緒に散歩とかしない?」
「どこを?」
「近所の公園とか」
「ええいいわよ。でも時間大丈夫?」
そう、二人の明日は希望に満ちている。
「うん。今日は余裕あるんだ。だからどうかなって」
「行きましょう!」
「わぁ! それは嬉しいな、ありがとう」
◆終わり◆




