夏の日、婚約者に呼び出されたと思ったら婚約破棄を告げられました。~幸せのための選択は重要です~
それは夏の日だった。
少し歩くだけでも汗が噴き出してしまうような夏。
暑さに喘ぐような日々の中のなんてことのない一日。
「悪いんだけど、君との婚約は破棄とさせてもらうよ」
婚約者アドレーンに呼び出されたと思ったら、そんなことを告げられてしまった。
しかも彼の横には知らない女性がいる。
長い睫毛と大きなアーモンド型の目、華やかな顔立ち、金髪を豪快に巻いた派手な髪型――絵に描いたような令嬢、といった感じの女性だ。
「僕さ、彼女に恋してしまったんだ」
「え」
「見えるだろう? この女性だよ。彼女はとても優しくて、また、美しい。一緒にいるだけで心が華やいで嬉しい気持ちになる」
「そう、ですか……」
「君といても暗い気分になるだけだし楽しくもないからさ。だから終わりにすることにしたんだ。僕に婚約破棄してでも一緒に生きていきたいと思えるような相手ができたんだ、もちろん君も祝福してくれるだろう?」
なんということだ……。
あまりにも勝手過ぎる……。
でも、もしこのまま結婚しても、アドレーンはこの女性を愛し続けるのだろう。
とすれば幸せな夫婦関係なんて築けるはずもない。
たとえ結婚に持ち込んだとしても明るい未来はないということだ。
浮気され続けるだけ。
惨めな思いをし続けることになるだけ。
……それで本当にいいのだろうか?
「なぜ黙るんだ」
アドレーンと一緒にいてもこの先幸せを感じられる瞬間はもう訪れないのだろう。
そんな人生でいいの?
そんな一生で後悔しない?
そう考えた時、彼と共に生きてゆく道は既に消えているのだと判明した。
「祝福すると笑顔で言ってくれよ」
――そうだ、もう、彼との未来はないのだ。
「分かり、ました」
だからすべて終わらせてしまおう。
「婚約破棄……受け入れます
「ありがとう!」
「では、さようなら」
「感謝するよ!」
こうしてアドレーンとの婚約は破棄となった。
◆
婚約破棄宣言をされた三日後、アドレーンは死亡した。
浮かれていた彼はあの女性と二人でお茶会に参加したそうなのだが、その際毒が入っていた紅茶を飲んでしまったそうで、突如倒れそのまま死亡したそうだ。
……ざまぁ、としか思わない。
毒入り紅茶が出回っているお茶会というのも怖いけれど。
でもきっとそれは天罰だ。
身勝手な婚約破棄をした彼に神が罰を与えたのだろう、そんな気がする。
◆
あれから数年、私は、近隣国の王子に見初められて結婚した。
生まれ育った国を出ることとなったのは想定外だったけれど、でも、今はとても幸せなのでこの選択をしたことを悔やんではいない。
私の選択は正しかったと思う。
……そう、幸せへの選択。
◆終わり◆




