婚約者を妹に奪われました。~死を選ぶにはまだ早かったようです~
婚約者を妹に奪われた。
夏の日のことだった。
私は突然現れた婚約者と妹から「お前はもういらない、婚約破棄する」「残念でしたねお姉さま、彼はわたくしを選んだようですわ」と言われ、突如手にしていたものすべてを失った。
――悲しくて。
その日の晩、近所の崖へ行って死のうとして。
でもそこで出会った。
この人生に希望の光を与えてくれる人に。
「君は生きるべきだ!」
――その言葉にどれだけ勇気づけられたか。
そうして私は死を選ばないことにした。
でも家へも戻らない。だってそこには妹がいるから。勝ち誇ったようなじっとりとした黒い笑み、あの顔はもう見たくない。姉である私を見下すようなあんな顔をする人と一緒に暮らしたくはない。
だから私は飛び下りを制止してくれたその人と共に生きることにした。
――どのみちすべて失った後だ。
私は何もかも捨てる。
それでいい。
そうやってまた新しい人生を築いてゆく。
◆
あれから三年。
私は今もあの時救ってくれたその人と幸せに暮らしている。
彼は私を愛してくれているし、私も彼を愛している。
とても幸せな日々。
この道を選んで良かったと心の底から思う。
で、妹はというと、結婚式前日に事故に遭い亡くなった。
馬車で移動していた最中の事故。それにより落命し、結局、私の婚約者であった彼と結ばれることはなかった。二人に幸せな未来はなかったのだ。また、彼も、結婚する予定だった人を失ったことで精神が壊れてしまったらしい。正気を失った彼はたびたび街中で奇行を繰り返すようになってしまったと聞いている。
◆終わり◆




