それは、ある朝のことでした。〜婚約破棄はいつだって唐突です〜
ある朝のこと、目を覚ますと枕もとに婚約者アーダーからの手紙があった。
そこに書かれていたのは婚約破棄の意向。
『君よりも好きな人ができた。だから君とはもうおしまいにする。婚約は破棄だ。今までありがとう。そして、さよなら』
そんなことが書かれた手紙。
それを読んだ時、私は、ただただ衝撃を受けた。
アーダーは昨日までこれまでと何も変わらない様子だった。にもかかわらずいきなりこれ。そんなことがあるのだろうか、なんて思ってしまう。何かの間違いではないか、誰かのいたずらではないか、などと考えて。でもその文字は確かに彼のものだ。
その後一応本人に連絡して確認したのだが、すると彼は「その手紙を書いたのは自分で間違いやい、すべて本心だ」と言った。
他に愛する人ができたことは事実。
婚約破棄する意向であることも事実。
彼は迷いのない声でそう言った。
……そうか、私はもう捨てられるのか。
あまりにも悲しい。
あまりにも寂しい。
そして、虚しい。
でも仕方がないのだ。
どう足掻いても変えられない現実というのもこの世界には存在する。
「悪いな。さよなら。……じゃあ、な」
……でも、こんなのは、あんまりだ。
私が何をした?
私が何をやらかしたというのか?
罪なんてないはずなのに。
なのに、こんな結末。
……ただ捨てられるの?
◆
婚約破棄されてからしばらく、私は体調を崩した。
その姿を見ていた父は激怒。
湧き上がる怒りに耐えきれず、彼は、自身の判断で呪術師を雇った。
そしてアーダーに呪いをかけた。
その結果どうなったかというと。
言っていた女性と結婚しようとしていたアーダーだが、結婚式の予定を立てている段階で馬車の事故に遭い落命した。
それはきっと呪いの効果だったのだろう。
また、女性もその後少しして落命することとなる。
何でも散歩中に山賊に襲われたそうで。
誘拐され、山小屋に暫し監禁され、その身を弄ばれて。
その果てに殺められたそうだ。
……ああなんて恐ろしい。
でも怨むならアーダーを怨んでほしい。
すべての元凶は彼なのだから。
◆
あれから三年。
いくつもの季節が過ぎて、私はもうすぐ結婚する。
幸せへの道をゆくのは私。
アーダーでも、あの女性でも、ない。
◆終わり◆




