呪われ男子な婚約者は私の力によって穏やかに暮らせるようになったのですが、すると急に勘違いし始めて……。
婚約者である彼ウィーズルーは呪われている。
というよりか、極度の不幸体質で、幼い頃からことあるごとに厄介なことに巻き込まれたり災難に見舞われたりして生きてきたのだそう。
で、そんな彼のために彼の親が連れてきたのが、呪い祓いの才を持つ私であった。
私はウィーズルーを呪いから救うために彼と婚約した。
――だが、彼が喜んでいたのは最初だけで。
「お前なんかと婚約しなきゃ良かった。世にはもっと魅力的な女性がたくさんいるのに。ちょっと体質の都合でお前みたいなのを選んで、今はもう後悔しかない。だって、お前、絶対俺に相応しくないだろ」
不幸に見舞われなくなった途端勘違いし始めたウィーズルーは、私を見下し、無礼な言葉をたびたび吐くようになった。
「不幸体質ももう完治したしさ、お前なんて本当はもう要らないんだ」
「なんてこと言うのよ……」
彼はことあるごとに私の必要のなさを語る。
どうやら本気でそう思っているようだ。
表情を見ていてもとても冗談で言っているのだとは思えない。
「だってお前と婚約したのはこの体質を治すためだけだろ? 好きだからとか愛していたからとか、そんな要素はゼロ。ってことは、さ。呪いから解放された今、お前と一緒にいる理由なんてないってことだろ」
しまいにはそんなことまで言い出して。
「離れれば再発するわ……」
「脅すなよ! 卑怯だぞ! お前、とことん悪女だな」
「そんなのじゃないわ」
「うるせえ!」
「大声で威圧しようとするのはやめてちょうだい」
「黙れよ!」
少しばかり言葉を返すが、それすらも火に油を注ぐ状態となってしまい。
「もういい! お前なんか要らない! 婚約は破棄だッ!!」
――ついにそこまで言われてしまった。
「……本気なの?」
「当たり前だろ。こんなこと、冗談で言うはずない」
「そう……」
「何だ? 嫌か? まぁそうだろうな。今さら貰い手探してもまともな貰い手があるはずないもんな。なら謝るか? 泣いて土下座するなら考えてやってもいいけどな?」
馬鹿だろうか、この人は。
そんなことするわけがないだろう。
こちらには非など何一つとしてないのに。
「分かった、それでいいわ」
彼とはもう共には歩めない。
今はそう確信している。
彼を救えるならそれは嬉しいことだった。けれど、こうまで言われては、その気もなくなってしまう。見下され、馬鹿にされ、不要と言われ。それでもなお彼を救うために彼の傍にいる、なんて、私はそこまで出来た人間ではない。
嫌なものは嫌だ。
私にだって心はある。
「じゃあ、さようなら」
私はそう告げてその場を離れた。
――その後、私とウィーズルーの婚約は正式に破棄となった。
◆
婚約破棄後間もなく、ウィーズルーは街中へ出掛けていたところスリに遭った。
しかもその際転倒してしまい、足を骨折したそうだ。
時間帯が夜であったこともあり人があまりおらずそのため転倒後数時間放置されてしまったこともあって状態はより悪くなってしまったそうである。
そうして入院することとなるウィーズルー。
だがその病院内で虐めを受けることとなる。
同部屋の他の患者に喧嘩を売るような行為を繰り返した結果皆に嫌われてしまい、全員から無視されるなどから始まり様々な虐めを受けることとなった。
そしてそれに耐え切れず自死を試みる。
だがそこが病院であったこともあってすぐに発見されてしまい、命を捨てることは叶わなかった。
でも誰も彼に優しくはしなかった。
それから数ヶ月、ようやく退院できたウィーズルーだが、ある喫茶店の前で魔が差してうっかり痴漢してしまい現行犯逮捕された。
そのまま牢屋送りとなる。
彼はもう罪人。
前日までとは状況が大きく変わった。
牢屋に入れられた彼にはもう人権なんてものは少しもない。
そこで彼は酷い虐待を受けたそうだ。
――と、彼は次々不幸な出来事に見舞われることとなる。
でもそれが本来の彼なのだ。
生まれながらにしてそういう体質だったのだから、そんなすぐに治るわけがない。
一方私はというと。
婚約破棄から一年と少しくらいが経った頃に良い縁談が届いてきて、その男性と結ばれ、幸せになることができた。
◆終わり◆




