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君が女好きな婚約者に婚約破棄されたと聞いた夜、さも偶然であるかのように僕は君の前に現れたんだ。
透き通るような君の肌が好きだった。
だから、君が女好きな婚約者に婚約破棄されたと聞いた夜、さも偶然であるかのように僕は君の前に現れたんだ。
「泣いてるの?」
家の外で一人佇み俯いていた君にそんな風に声をかけて。
「……懐かしい顔ね」
「急にごめん。……そんなに親しくもないのに、話しかけたりして」
「いいえ」
「大丈夫だった?」
「ええ、大丈夫よ。けれど……少し、恥ずかしいわね。貴方にこんな情けないところを見せてしまうことになるなんて」
冷たい風が吹く中で二人話をした。
まだ少し落ち込んでいるからか俯いた君の瞳には哀の色が滲んでいる。
まるで水の中に絵の具を一滴垂らしたかのように。
「話、僕でよければ聞くよ」
きっと君は気づいていないだろう。
僕がどんな想いを胸に秘めているのかなんて。
「……いいの?」
「もちろん!」
でも、今はまだそれでいいんだ。
◆終わり◆




