幼い頃から食べることが好きなこともあってぽっちゃり気味の体型だったのですが……? ~何が幸せに繋がるやら分かりませんね~
幼い頃から食べることが好きなこともあってぽっちゃり気味の体型だった私は、十九の春、婚約者ベルードから。
「お前みたいな肥満女、オレには相応しくねぇ。てことで、婚約は破棄な!」
そんなことを言われてしまい、しかも、悪く言われるのみならず関係の解消まで言いわたされてしまった。
「ま、せいぜい、きたねぇおっさんにでも拾ってもらえや!」
私がぽっちゃりしていることなんて最初から知っていただろうに、それが嫌ならなぜ今日までずっと婚約していたのだろう……。
そもそも、最初の時点で、婚約なんてしなければ良かったのではないか?
……正直謎の極みである。
とはいえ言い返せるはずもなくて。
私はただ黙って宣言を受け入れる外なかった。
結局私は臆病だったのだ。
彼に向き合う勇気も力もなかった。
……それを分かっているからこそ彼もこんな行動に出たのだろうけれど。
とはいえ、もう過ぎたことは過ぎたこと。後になってからあれこれ考えたり言ったりしても、そこに生産性はないし有意義さもない。
だから私は未来を見据えることにした。
折れないで生きよう。
前を向いていよう。
そうしていればきっと幸運に恵まれる日はやって来るはず。
希望を信じて、生きてゆくことにした。
◆
三ヶ月後、私は、ぽっちゃり女子が大好きなのだと話す隣国の王子マフリートから「貴女は僕の理想のぽっちゃりです! ぜひ、我が妻となっていただきたい! いきなりで申し訳ありませんが考えてみていただきたいのです。どうか、ご検討お願いいたします」と言われ、そこから私の人生は大きく変化してゆくこととなる。
マフリート王子はありのままの私を純粋に愛してくれた。
だからこそ私も彼に日に日に惹かれていって――そうしてやがて、彼と結婚する、と決心した。
そうして私はマフリート王子と結婚することになったのだった。
◆
あれから数年、私はマフリート王子の妻として王城にて生きている。
「今少しよろしいでしょうか」
「あ、マフリートさん。はい。何でしょう。大丈夫ですよ」
「前に仰っていたベルードという男ですが」
「何か情報がありました?」
「どうやら徴兵され亡くなったようです」
「そ、そうなんですか!?」
マフリート王子はかつて私がベルードという男と婚約していたことを知っている。
彼はそれを知ってもなお私を愛してくれているのだ。
そのことを伝えておくことに決めた時はとても緊張したけれど、でも、マフリート王子はきちんと話を聞いて温かな表情を向けてくれた。
当時、それもまた、私の中の彼への熱を高める一つの要素となったことは確かなことだ。
「徴兵されて訓練を受けていたようなのですが、訓練中の事故で」
「ああそうでしたか……」
「悲しいですか?」
「……いえ、悲しくはありません」
「そうですか。それは意外です。悲しまれるかと思ったのですが」
「彼は……心ない人でしたから」
ベルードが良い人であったなら、きっと今、悲しくなっていただろう。
でも彼は良き人ではなかった。
だからこうして彼の死を知っても心はさほど動かない。
◆終わり◆




