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さくっと読める? 異世界恋愛系短編集 4 (2024.1~12)  作者: 四季


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幼い頃から機嫌の波が凄まじい母に色々迷惑をかけられて育ってきて、婚約者までもそんな感じの人だったのですが……。

 私は幼い頃から機嫌の波が凄まじい母に色々迷惑をかけられて育ってきた。


 それは人間だが、誰だって、不機嫌な時というのはあるものだ。日々忙しくしていれば苛立つこともあるだろう。ある程度は仕方ないとは思う。


 けれども母の機嫌の波というのは凄まじい振り幅があるもので。

 特に負の方向にふれるともう凄まじい。


 暴言、暴言、暴言。


 母は実の娘である私に対してであっても容赦なく心ない言葉を投げつけてくるし、それを悪かったとは少しも思わないのだ。


 それほどに、彼女の機嫌の波は凄まじい。


 そんな環境で育ったからか他者の顔色を窺うことに慣れて育った私は、なぜか不機嫌になりやすい人と巡り会うことが多く、友人もそういう人が多かったがしまいには婚約者となった青年リュクスまでもそういう人であった。


 リュクスはことあるごとに私に絡んでくる。

 機嫌が良い時は比較的まともではあるのだが、少しでも気に食わないことがあれば怒り出し、そういった時には私のすべてを批判否定するような言葉を投げつけてくるのだ。

 もちろん言葉を選ぶなんて人間的なことはしない。

 いや、むしろ、私が傷つくそうな言葉を敢えて選んでいるかもしれないと思うような言葉選びだ。


 この人と生きてゆくのは嫌だなぁ、なんて思いながらも、そんなこと言い出せるはずもなく、ただ時だけが過ぎて……。


「おいババア! 婚約破棄ってどーいうことだよ!」

「うちの娘から離れてちょうだいと言っているのよ」


 そんなある日。

 母が勝手にリュクスに婚約破棄を告げるという事件が発生する。


 またどうしてそんな面倒臭いことを……。


「ふっざけんな! 何だそれは!? そいつの意向なのか!?」


 やはりリュクスは激怒、家へ殴り込んできた。


「いいえ違うわ」

「はぁ!?」

「あたしの意向よ。貴方は娘には相応しくない、そう思ったの」

「何だと!? クソババア! そいつと離れるなんてそんなつもりは一切ねぇ! 発言を撤回しろやボケェ!!」


 そこで取っ組み合いの喧嘩を始める母とリュクス。


 近づくと巻き込まれそうで厄介なので、取り敢えず離れておいて、静かに見守っておくことにした。


 厄介な人は厄介な人同士好き放題しておけばいい。

 何をしていようが自由ではあるが、せめて、そういう類でない人間を巻き込むようなことだけは避けてほしいのだ。

 反撃しない、おかしなことをしない、そういった人間が害を被るのは目に見えているから。


 ――その喧嘩の果てに、リュクスは母を殴り殺すこととなる。


「よっしゃあ! 勝利だ!」


 その後リュクスは人殺しの罪で逮捕された。

 そして、そんなリュクスは、それから一週間も経たず処刑されることとなった。


 厄介な人たちは消えた。私の視界から。これまで散々振り回されてきたけれど、もうそんな目には遭わなくて済むのだ。これからは私は私の人生を歩むことができる。不機嫌な人の感情のうねりに巻き込まれてサンドバッグのように扱われることはない。自由に翼を広げて、自由に道を選び、可能な限り好きなように人生という地図を広げてゆける。


 母も、リュクスも、もうこの世界には存在しないのだから。



 ◆



「これちょっと運ぶの手伝ってもらってもいい?」

「あ、うん。いいよ。行く行く」


 あれから数年、私は良い人と巡り会うことができ、その人と夫婦となって今はとても穏やかに暮らせている。


 春には植物の微かな芽生えを。

 夏にはほとばしるような生命力と暑さを。

 秋には大地の豊かなる実りを。

 冬には静けさと共に在る冷えた趣を。


 味わいながら日々を歩んでゆけるほど、心に余裕が生まれている。


「これ持ったらいい?」

「ええお願い」

「そっちも持とうか?」

「ううん、これは大丈夫。私だってべつに物を持てないわけじゃないし」

「そっか。分かった。けど、もししんどくなったらいつでも言って」

「ありがとう!」


 私たちは夫婦は小さなことでも感謝し合いながら歩めている。

 だからこそ幸福な日々を守りながら生きることができているのだ。


「ふーっ、運搬終わり!」

「手伝ってくれてありがとう」

「どういたしまして」

「おかげさまで早く終わったわ」


 自然の中で生まれる小さな生命を愛おしく思うように。


「まだ他にもある?」

「ううん、もうないの。あ、そうだ、お茶でもしない? 手伝ってもらったおかげでちょっと時間ができたし」


 お互いのことも大切に想い続けるだろう。


「それいいね!」


 ――その先にこそ、幸せな未来がある。


「じゃあお茶淹れるわ」

「棚から何かお菓子出してくるよ」


 だから今日も。

 二人で支え合って。


「いいのよ? 座ってて? 待っていてくれればそれでいいから……」


 日常の中にある小さな楽しさを見つけながら息をする。


「でも準備一緒にしたいし」

「協力したい、ってこと?」

「うん、そう」


 今は二人だからできることをたくさんしよう。


 共に在れる運命に感謝しながら。


「……相変わらずね、貴方。真面目」

「変かな?」

「いいえ。思いやり、嬉しいわ」

「じゃ、準備に取り掛かろう! 早速!」

「凄いやる気ね……」



◆終わり◆

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