婚約者の優しさはすべて演技でした。彼は浮気していたうえ浮気相手に対して私の悪口をぶち撒けていたのです。
いつも優しいふりをしていた婚約者ルードだが。
「あいつさぁ、マジダセぇの。キモいしさ、魔女だし、そのくせ有能じゃねぇし。どこ好きになれってんだよありゃ。酷くね?」
「もー、ルードったら鬼すぎぃ」
「鬼? んなわけねぇだろ、オレは天使だっての。心優しい紳士だっての。鬼なのはあいつだろ、てか、あいつの魅力のなさ? なんてな! はははっ」
裏では私のことをボロクソに言っていた。
しかも、浮気相手の女に。
仕方がないので取り敢えず彼の発言を録音しておく。
そして、やがて、突きつける。
「これ、酷くないですか?」
「え……や、あっ、ち、ちがっ……」
「こういうのは酷すぎますよ、隠れてあれこれ悪口を言うなんて特に悪質です」
「ちがっ、ちがっ、違って……ゃ、あの、その……そ、そういうことじゃなくてこれはあのそのえっと、あ、ゃ、だからっ……」
ルードは慌てるけれど、もう遅い。
「婚約、破棄します」
私の心は既に決まっているのだ。
今さら彼が何を言ったとしてももはやこの決定を覆すことなどできない。
「さようなら、ルードさん」
そうして婚約は破棄となった。
私は彼の悪行を知り合いが営む新聞社に持ち込み、世に広く流してもらった。
それによって社会的に終わるルード。
彼がどういうことをしたか、彼が本当はどういう人間か、すべてが明るみに出る。
数日後、ルードは、自宅の庭にて倒れている状態で発見される。
……彼は既にこの世を去っていた。
◆
「気持ちの良い朝ね、ルクセン」
「そうだな」
私は今、資産家である男性ルクセンの妻となっている。
「肩、揉もうかしら?」
「いやいい」
「嫌?」
「いやそうじゃない、嬉しいの、だが」
「けど?」
「……恥ずかしくてな、触れ合うのはまだあまり慣れないんだ」
私たちの関係は良好だ。
「そういうこと。……照れてるのね」
「……すまん」
朝も、昼も、夜も。
私たちは互いを想い合っている。
「じゃ、朝食にしましょうか」
「良い案だな」
「何が食べたい?」
「卵!」
「スクランブルエッグとか?」
「ああ」
「分かったわ。前に好きだって言っていたものね。じゃあそうしましょう。作ってくるから待っていて」
「では皿を出しておく」
◆終わり◆




