ああ、また、雨が降る……。こんな日は思い出すわ。あの頃の記憶。
ああ、また、雨が降る……。
こんな日は思い出すわ。
あの頃の記憶。
そう、愛していた人に切り捨てられて絶望の涙に打たれたあの頃を……。
婚約者の彼を愛していたのに、それなのに、彼は私を愛しはせず。何をやらかしたわけでもないのに、彼は私を切り捨てた。とてつもなく身勝手で滅茶苦茶な理由をつけて。ただ他の女のところへ行きたいがために。
それは私にとって人生最大の絶望だったの。
胸が痛くて。
息ができなくて。
とても耐えられないくらい、死んでしまった方がましかもしれないと思うくらい、あの時期は辛かったわ。
……でも。
「おはよう」
「あ、おはよ」
あの辛い時期があったからこそ、現在の夫、素晴らしい人柄の彼に巡り会えた。
「もう起きてたんだ? 早いね」
「ええ、目が覚めて」
「そうだったんだ。大丈夫? 悪夢でもみた?」
「いいえ」
「なら良かった」
あの苦しみがあって、だからこそ、今のこの幸福を手にできているのだ。
そう、すべての経験が糧となる。
過去を越えて。
幸せな現在、そして、未来へ。
私はもう泣いてはいない。
◆終わり◆




