「君との婚約だが、破棄とさせてもらうこととした」その日は突然やって来ました。もちろん落ち込みました、けれども……
「君との婚約だが、破棄とさせてもらうこととした」
ある日の昼下がり。
婚約者である彼シーモスがそんなことを告げてきた。
「婚約、破棄……? また、どうして……」
「君にはもう飽きたんだ」
「飽きた……!? ですか?」
「ああそうだ、飽きたんだ。理由はそれだけだよ」
シーモスは冷たい目をしていた。
「君は悪い娘ではないけれど、だからこそ一緒にいても楽しくない。分かるか? 男はな、とにかく刺激的な関係が好きなんだ。だからただの善良なだけの女の子とではすぐに飽きてしまうんだよ。都合の良い遊び相手にはちょうどいいんだが、な。ワクワクしないから一緒にいて楽しくない」
彼はそんな私を批判するような言葉を並べる。
それらの言葉は磨き上げられた刃のよう。本人としては普通に説明しているつもりなのかもしれないが、言葉選びのあちこちから悪意のようなもの心なさを感じる。たとえ暴力的な言葉選びでないとしても、それでも、批判的なことを言われれば時に傷ついてしまうものだ。
「じゃあな、バイバイ」
一方的に切り捨てられた私は……それからしばらく体調を崩し療養せざるを得なくなってしまった、けれど、同居している両親からの温かなサポートもあって徐々に回復していく。
大丈夫、生きていれば希望はあるから。
次第にそう思えるようになっていった。
◆
あれから数年が経ったのだが、シーモスは幸せを掴むことはできなかったようだ。
彼はある時ストーカー気味な女性に弱みを握られてしまい、脅され、結婚することを強要された。また、その女性は非常にサディスティックな人物であり、それゆえ彼は結婚後ただひたすらに痛めつけられる日々に落とされることとなったようだ。監禁され、生活も徹底的に管理され、毎晩夫婦の時間という名目で鞭で叩かれたり尻を蹴られたりというような暴行を受けたそう。しかし弱みを握られているために他者へ相談することもできず。シーモスは独り耐え続けるしかなかったよう。
で、やがて、シーモスは自ら命を絶った。
ちなみに私はというと。
良き夫との縁に恵まれ幸せな日々を手に入れることができた。
夫である彼はガーデニングの大家だ。
だから家でも草花を育てており、それゆえ、美しい草花に囲まれる生活をすることができている。
◆終わり◆




