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さくっと読める? 異世界恋愛系短編集 4 (2024.1~12)  作者: 四季


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「お前さ、生きてる意味あんの?」婚約者からいきなりそんなことを言われたら……何とも言えない複雑な気持ちになってしまいます。

「お前さ、生きてる意味あんの?」


 婚約者ルトメールはある時急にそんなことを言ってきた。


「え。……今、何て?」

「だからさ、お前、生きてる意味あんのかって聞いてんだよ」


 ルトメールとは五年以上関わっている。

 けれども私は今の彼ほど心なく冷ややかな目をした彼を見たことがない。


「そんなこと聞く?」

「答えろよ」

「もしかしてルトメールは私に生きている意味がないって言いたい感じ?」

「何でもいいから問いに答えろ!」

「……そうね。私は私に自信を持っているわ。だから意味がないとは思わないしこれからもそんな風に思うことはないと思うわ」


 するとルトメールは。


「分かった、じゃあ婚約は破棄な」


 そんなことを言った。


 ……え? どうしてそうなるの。生きてる意味があるかどうか尋ねられて、それに答えたら、即座に婚約破棄? ……とても理解できそうにない。何が悪かったのだろう。それも、即座に婚約破棄されるほど。答えろと言われて答えたこと? それとも答えの内容? ……あるいは、どのみち最初から婚約破棄を告げるつもりだった? 申し訳ないが私には今の彼を理解することはできない。


「また急ね」

「いいだろ、もうそう決めたんだから」

「勝手だわ」

「だとしてもそれが俺の決定だ」


 ルトメールがこんなにも悪い意味で自己中心的な人だとは思わなかった。


「……そう」

「いいな? 聞いたな? 婚約は本日をもって破棄だからな」

「分かったわ。けれど……償いはしてもらうから」

「はぁ?」

「お金よ」

「はああ!? 何だと!?」

「そちらの都合での婚約破棄だもの、当然でしょう」


 向こうが冷ややかな視線を向けてくるのであれば、こちらだって容赦はしない。


 彼はもう味方ではない。

 私もそう捉えて動かせてもらう。


「じゃあねルトメール、さようなら」



 ◆



 生きてる意味あんの、などという問いを私に投げつけたということを知った父は激怒した。


「絶対に許さん! 金をむしり取ってやる!」


 父は協力者を集めルトメールから慰謝料をがっつり取るべく動き出した。


「父さん、無理はしなくて大丈夫よ」

「ああ。だが我が娘を侮辱されて黙ってはおれん。父として、だ。お前は何も心配するな、父が本気で叩きのめす」

「そ、そう……」

「やってほしいことがあれば言ってくれ、参考にするからな」

「そうね……何か思いついたら言うわ……」


 ここまで怒っている父を見たのは初めてだった。


 ――その後ルトメールは本当に慰謝料を支払わされることとなった。


 しかもその額が通常の倍以上。

 それはそういうことに慣れていて詳しい人が父に協力したからこそできたことであった。


「よぉし、ま、これでそこそこ順調にいけたな!」

「ありがとう父さん」

「どうだ! これでちょっとは父さんを尊敬してくれたか?」

「上手くやったなぁと思うわ」

「ぐほへへへ!」

「……いや笑い方」


 父は最後は相変わらずであった。


 ただ、慰謝料をしっかりと取ることができたことによって、私の心は少し軽くなったような気がした。


 負った傷は癒えずとも。

 何もないまま終わってしまうよりかはすっとする部分もあって。


 過去は捨てて、未来へと歩もう。


 いつしかそう思えるようになっていた。



 ◆



 慰謝料を取ることに成功した日からちょうど三ヶ月ほどが経った頃、父の紹介で一人の男性と会ってみることとなる。


 その男性は良い会社に勤めている人だ。

 父が言うには「誠実だしほどよく真面目、ユーモアもあって、広い心を持っている」とのこと。

 だから会うのを楽しみにしていたのだが――本当に、父が言っていた通りの感じの人であった。


 私はその人をすぐに好きになった。


 ――そして、彼と結婚するべく動き出す。



 ◆



 出会いから一年半ほどで私は彼と結婚した。


 父の紹介から始まった関係。

 けれどもそれは良縁で。

 二人はあっという間に惹かれ合い、そして、気づけば強い絆で結ばれていた。


 こんなにも良い縁を手に入れさせてくれた父には感謝している。


 ……ああそうだ、そういえば、なのだが。


 ルトメールはもうこの世を去った。


 彼はまだ年寄りではない。

 それゆえ死は驚くべきものだろう。


 ただ、彼は自身の行動によって死へと至ることとなったのだ。


 ――既婚者女性に手を出した。


 それが結果的に彼を死へ誘うこととなったのだった。


 女性と深い仲になっていたが、それが女性の夫にばれてしまい、激昂した夫に何度もこん棒で殴られて。感情的になっていた夫はとまらなかった。で、殴り続けているうちにルトメールは死んでいた。


 ルトメールの最期、それは、想像していたよりずっと呆気ないものであった。


 激怒したからといって他人を殴り続けることは良くないことだ。そういう意味では女性の夫にも問題はある。やり過ぎ、という意味で。たとえショックだったとしても、もう少し冷静になるべきではあっただろう。


 ただ、そんなことになる原因を作ったのは外の誰でもないルトメール自身であるので、ルトメールにも非はある。


 いや、むしろ、彼にこそ非があるのである。



◆終わり◆

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