婚約破棄されて。〜さよならは唐突に〜
「悪いが、君とはもうやっていく気はなくなった」
婚約者である彼は冷たい目をして告げてくる。
「婚約は、破棄だ――」
その時の彼は私がそれまで見たことがなかったくらい冷えきった目つきをしていて、まるで悪魔かそれに近い何かであるかのようだった。
何事なの? とか、急にどうしたの? とか、本来であれば質問が湧いてきたところだろうが……彼がこちらへ向けている面持ちがあまりにも冷たいものだったから、そういった質問を投げることさえもできず、私はただ一度小さく頷くだけだった。
――そうして、私たちの関係は終わる。
◆
あれから何年が経っただろう?
問いに答えることはできない。
もう思い出せはしない。
でも、今、私はとても幸せだ。
なぜって?
――簡単なことだ、私には夫がいてその夫というのが我が最愛の人なのである。
だから私はもうこれ以上何も望まない。
過去にも未来にも。
今ここにあるものを抱き締めて大切にして生きてゆく、そのつもり。
唐突に訪れるさよならを超えて。
私は幸せを手に入れた。
◆終わり◆




