いつも鼻をほじくっていて会うたびに指についたものをなすりつけてくる婚約者がいるのですが……。
いつも鼻をほじくっていて会うたびに指についたものをなすりつけてくる婚約者ガーエンからある日突然宣言される。
「悪いな。君との婚約だが、破棄とさせてもらうことにした」
関係の終わりを告げる言葉。
それは歓喜を生み出す宣言であった。
「君はパッとしない。以前は好きだったが、いつからか段々好きでなくなってきた。それに……こちらが親しくしようとしても嫌そうな顔をするだろう? 不快そうな顔をするだろう? それで余計に萎えてしまったんだ。こんなつまらなくてくだらない女に親しくしようとしてあげる必要なんてあるのか、と、疑問に思えてきてしまってな」
こうして私は切り捨てられた――でもそれは悲しいことでも辛いことでもない――むしろ逆、喜ばしく安堵できるようなことである。
これでもう汚いものをなすりつけられなくて済む!
そう思うと嬉しくて。
感情が爆発しそうで。
歓喜の舞いで暴れ回りたいくらいの嬉しさがあった。
――帰宅後。
「やっほーっい!! これで解放!! もう自由だし嫌なことされなくて……済むぅーっ!!」
私は衝撃的に叫んでしまった。
ここまで耐えただけでも偉いと思う。
屋外で騒がなかっただけ我慢した方だろう。
「やーったぁーっ! やっほーっい! やーったやーったやったやったやったやったやった! ワイ! やーったぁーっ、やった! やーったぁっ、やったやった! ヘィヘィヘィヘィヘィヘィヘィヘィやったねやったねうれすぃーっねぇっ! ヘィ!」
歌が、踊りが、止まらない。
「やったねやったやったねやったやったねやったやったねやったやったねやったやったねやったヘィヘィヘィヘィヘィヘィヘィヘィヘィッ!!」
◆
あれから数年。
私は親の知り合いの息子さんと結婚した。
意外な出会いではあったけれど……でも、彼と初めて対面した瞬間に分かった、私たちは共に歩んでゆける二人だと。
で、やはりその通りになったのだ。
あの時の勘は正しかった。
ちなみにガーエンはというと、あの後親の指示で好みでない女性と結婚しなくてはならないこととなり絶望していたそう。
そんな結婚式の最中突然起こった飾りの風船の破裂に巻き込まれて眼球を破壊され、また、その際に負った傷から菌が入ったために衰弱してやがて落命したそうだ。
◆終わり◆




