高級喫茶店へ行こうと誘ってくれた婚約者でしたが、実は裏で……?
「ニーナ、今度さ、アルフレッド行かない?」
婚約者である彼ミッシェルがそんな提案をしてきてくれたのはある春の日だった。
ちなみにアルフレッドというのは、国内でも有数の高級喫茶店である。
「いいの!?」
「うん、もちろん。前行ってみたいって言ってたよね」
「そうなの!」
私は紅茶好き。だからアルフレッドのことは知っていた。その店は紅茶もとてもハイクオリティで美味しいのだと聞いている。でもこれまでなかなか行ってみられる機会はなくて。確かにミッシェルにそういう話をしたことはあったけれど、まさか誘ってもらえるなんて思わなかった。
「紅茶が美味しいんですって」
「いいね」
「でも……本当に、いいの?」
「もちろん。支払いも僕がするし。たまにはぱーっと楽しもうよ!」
降って湧いた嬉しい出来事に心が躍る。
「ありがとう! とても嬉しいわ、幸せよ」
それからの私はとても幸せな気分だった――ミッシェルの真実を知るまでは。
◆
その日、私は、たまたま街の本屋に立ち寄った。
そしてそこで見知らぬ女性を連れたミッシェルを目撃する。
「アルフレッドに行けるなんてぇ、さいこぉ」
「楽しみだね」
「婚約者さんいるのにぃ、いいのぉ? こんな女連れていっててぇ」
「いいんだ、ばれないよ」
二人がそんな会話をしているのを聞いてしまい。
「ミッシェル! 一体どういうこと!? その人は誰なの!?」
思わず飛び出していってしまう。
「ニーナ……!?」
「その人ともアルフレッドに行くの!?」
「……あ、いや、その……ただの練習だよ、お試し。ニーナと行くための練習」
ミッシェルは子どものような言い訳をするけれど。
「そんな! 酷いわ!」
「どうして」
「他の女とも行くなんて信じられない!」
こちらとしてはそんなくだらない言い訳で納得できるわけもなくて。
「……うるさいよ、ニーナ」
「傷つくわ……!」
「あ、そ。じゃ、もういいや」
「え」
私たちの関係は崩れてゆく。
「ニーナとの婚約は破棄とするよ」
ついに彼はそこまで言った。
「面倒臭い女は嫌いなんだ」
こうして私とミッシェルの関係は終わりを迎えてしまったのだった……。
◆
婚約破棄宣言から一週間、ミッシェルの訃報が耳に入った。
ミッシェルは借金取りからあの女を護ろうとして刃物で刺され落命したそうだ。
……なんて愚かな人なのかしら。
あんな女を護るために。
いや、あんな女、なんて言うと失礼かもしれないけれど。
でも、私だけと共にあったなら、彼は今でもきっと普通に生きていたはずだ。
……私には借金取りなんて襲ってこないし。
だがまぁそれもまた彼の選択。
ならば仕方がない。
たとえその女性のために死ぬこととなろうともすべて自己責任、自業自得でしかない。
ちなみに当の女性はというと、その時に借金取りに誘拐されたきり行方不明となっているらしい。
◆
あれから数年が経った。
私は今、家庭を築き、穏やかに生活できている。
そして何より、夫も私と同じ紅茶好きなので、日常の中で楽しむティータイムが何よりも愛おしい時間だ。
◆終わり◆




