結婚することだけが幸せに生きる道ではないと信じ歩み続けた結果、大金持ちになれました。
歴史ある家の一人娘として生まれた私エニスティリアは、幼い頃から両親に可愛がられ大切に大切にされながら育った。
そんな私には異性との出会いはなく、関係が始まるといったこともなく、気づけばそういう年齢になっていて。
いつしか知り合いからは行き遅れと馬鹿にされることも増えた。
でも私はそのことをそれほど気にしていなかった。
だって、家での生活は楽しいのだもの。
両親の傍で。
好きなものに囲まれて。
そういう暮らしこそが最高。
だからべつに他人に何と言われようともどうでもいい、そう思っていた。
そんな私だったけれど、やがて、伯母から紹介された男性シーオスと婚約することとなってしまった。
勝手に決められた……。
あまりにもめちゃくちゃ……。
ただ、うじうじしていても始まらないと思ったので、一度彼に会ってみることにした。
シーオス、彼が、もしかしたら良き友となってくれるかもしれない――そんな風にこの展開を無理矢理前向きに捉えながら、一歩前へと進んだ。
……だがそこに光はなかった。
「君が、行き遅れのエニスティリアか?」
シーオスは私に対して良い印象を持っていないようで。
「はは。確かに行き遅れてそうな女だな。魅力がない、とにかくもう、魅力がない」
初対面である私のことを平然と貶める。
「俺と婚約し、俺と夫婦になりたいのであれば、正直……今のままの君ではいけない。それでは俺に相応しい女性とは言えない。不潔な幼虫みたいなものだよ、今の君は」
そしてさらに。
「そこで、このプラン!」
大量の紙束を出してきて。
「さぁ、これにサインをして、このプランを契約するんだ。魅力あふれる女性になるにはこれが最も早い。一年だ。たった一年で、君のような不潔な虫のような女性であっても魅力的な女性に生まれ変わることができる」
よく分からない契約をさせようとしてきた。
「あの、困ります」
「何だと?」
「契約とか……いきなり言われましても、私、今日そういうことをするためにここへ来たわけではありませんので」
するとシーオスは激怒。
「そうかそうか! 生意気な女め! くだらん、くだらん……くっだらああぁぁぁん!! ……分かった、もういいさ。だがそういうことなら話はおしまいだ。俺との婚約も破棄とする!!」
関係まで叩き壊してきた。
……でもそれは悪いことではないのかも。
だって、私、シーオスのことを愛してなんていないのだもの。このまま彼と結婚するなんてことになったら、一生を棒に振ることとなってしまう。死ぬまで彼と共にあらなくてはならない運命に縛られることになる。
でももしここで怒られ切り捨てられたなら、私はもう自由だ。
その先はまだ分からないけれど。
でも少なくともほぼ知らない男性と強制結婚という展開だけは避けられる。
「分かりました。ではそれで構いません。婚約破棄、受け入れます」
ならばその道に進もう。
それが最も理想的な選択だ。
「はぁッ!?」
「そもそも私、あまり……乗り気じゃなかったんです、この婚約」
「何を言ってやがる!?」
「なので助かります」
「この俺と結婚したくない女がいるわけがない!! ……ああそうか、負け惜しみ、か」
何とでも言っていればいい。
私には何の関係もない。
「そうかそうか! 分かったよ! じゃあな、永遠にさよなら」
春風に銀の髪が揺れる。
貶められた悲しさはまだ心のすみに残っているけれど、折れてはいない。
私らしく生きる。
幼い頃から親に言われてきたことだ。
だからこの身にはその教えが染み付いている。
男性と愛し合うことだけが、男性に頼り生きることだけが、女の生きる道ではない。
もちろんそれも道ではあるし間違いというわけではない。
ただ、それはあくまで一つの選択肢であり、それを選ばない者が劣っているわけではないしどうかしているというわけでもないのだろう。
これまで結婚していないけれど能力の高い女性というのも複数見てきたし。
◆
あれから数年。
投資で大成功した私は国で一位二位を争うお金持ちになった。
「まさか、エニスティリアが大金持ちになるとはなぁ。しかも投資で。驚きだ」
「父さんが自由にさせてくれたからこそよ」
「エニスティリア、これからも好きなように生きなさい。それが幸せを引き寄せるから」
「ありがとう母さん」
両親は今も私のことを応援してくれている。
だからこそ前を向ける。
たとえ未婚でも幸せを感じながら生きていられる。
中には私のことを悪く言う人もいるけれど……そういった批判というのは大抵嫉妬に満ちたものだ、くだらないものだからあまり気にならない。
ちなみにシーオスはというと、あの後迫ってきた女性にはめられて既成事実を作られてしまい結婚しなくてはならないこととなってしまったそうだ。
しかも、言われたことには逆らえない立場のため、その女性の実家に住まなくてはならないこととなってしまって。
それによってシーオスは常に媚を売って生きていなくてはならないような状況で生きていかなくてはならないこととなってしまったようだ。
何を言われても、何を命じられても、彼は拒否できないし抵抗もできない。
もはや彼は奴隷のようなもの。
死ぬまで彼に自由はないし、人権だってないも同然である。
◆終わり◆




