このたび、幼馴染みが裏切りまして。~将来を誓っていたのに……残念です~
「将来絶対結婚しような!」
幼馴染みアドレッドはたびたびそう言ってくれていた。
「うん!」
私もその気でいた。
彼のことは嫌いではなかったから。
そうして私たちは婚約した、のだが――。
「俺さ、彼女と生きることにしたから」
二十歳になって数ヶ月が経ったある日のこと、アドレッドは女連れで私の前に現れそんなことを言ってきた。
「え……」
「婚約は破棄な」
言って、彼は隣の女と見せつけるようにキスをする。
「俺たち、愛し合ってるんだ」
「ごめんなさいねぇ? 婚約者さん。でもぉ、本当に愛されてるのはわたしだと思いますぅ」
――私には撤退しか選択肢がなかった。
だがその後、アドレッドの両親が息子の身勝手な婚約破棄宣言を知り激怒。父親は特に怒っていたようで。怒りの感情の波に乗った父親を止められる者はどこにもおらず、最終的に、アドレッドとあの女は別れさせられることとなったそうだ。
そして私はアドレッドの両親から謝罪を受けることとなる。
それ自体は受け入れた。彼の両親の「申し訳ない」という気持ちには理解できる部分が多かったからである。それに、単に謝罪されているだけなのにそれを受け入れない理由もない。謝られればその意思は受け入れる、世の中そういうものだろう。
ただ「もう一度婚約する」という提案は拒否した。
だって私はもうアドレッドを愛せない。
とうに彼は裏切り者となってしまったから。
償いの金だけ貰って、私は未来へと進むことを選択した。
未知である未来へ一人で行くのは怖い。
けれども過去に縋りつくのは嫌で。
だから私はただ前だけを見据えて歩いてゆくことを選択したのだ。
悲しみは胸の奥にしまって。
新しい物語の幕を開けよう。
◆
あれから一年ほどが経ったが、私は今、良き夫と共に穏やかな日常を謳歌できている。
アドレッドに切り捨てられたあの一件のすぐ後に出会ったのが現在の夫である彼だ。
彼はマシュマロのような頬の持ち主。
平均的な体型と比べると少々ふっくらしているけれど、そんなところも含めて、私は彼を純粋に愛している。
彼はいつだって私に寄り添ってくれる。
嬉しい時には一緒に喜んでくれるし、辛い時や悲しい時にはそっと見守っていてくれる。そして助けを求めれば手を差し伸べてくれるのだ。
そんなさりげない優しさ、そこも彼の良いところだと思う。
私はどこまでも彼と共に歩んでゆくつもりだ。
彼のことは真っ直ぐに信じている。
そこに疑いの心という名の欠片など一切ない。
そうそう、そういえばなのだが。
アドレッドはあの後も何度も女関係で問題を起こし、怒り狂った父親から勘当を言いわたされてしまったそうだ。
で、彼は今、ブラック労働に従事しているのだとか。
長時間労働で賃金はかなり低い。
そんな環境で彼はこき使われ搾取され続けているらしい。
また、アドレッドと仲良くなっていたあの女はというと、既にこの世にはいないそう。
というのも、アドレッドの次に手を出した男が借金王だったそうで、その借金をなすりつけられたそうで――借金取りに追い掛け回されていたある夜に乗っていた馬車が事故に遭いその場で死亡したのだそうだ。
◆終わり◆




