その日は突然訪れる。〜婚約破棄されても人生が終わるわけではありません〜
その日は突然訪れる。
「悪いな、マーガレット。俺はもうお前とは生きない。俺は愛する人のために生きるんだ」
婚約者ロバートゥに一方的に切り捨てられる日。
「よって、お前との婚約は破棄とする」
彼はどこまでも心なくて。
女連れで私の前に現れて、言葉を発し、ばっさりと私を切り捨てるのだ。
「あらあらぁ、捨てられちゃって、可哀想にねぇ〜……婚約者さん」
ロバートゥが連れている長い金髪が特徴的な女はそんなことを言ってねっとりと挑発してくるけれど、私はそれにまともに取り合いはしなかった。
……だって、無駄なことと分かっているもの。
挑発するつもりで言葉を発するような人の言葉をそのまま受け止めるなんてただ苛立つだけ。
「分かりました。では、私はこれで去ります。今まではありがとうございました、ロバートゥさん」
すんなり受け入れたふりをしてその場から離れる。
……でも許したわけじゃない。
急に理不尽に婚約破棄されて?
しかも馬鹿にするようなことまで言われて?
それで黙っていられるかと問われれば、答えはノーだ。
だから、復讐はする。
でも目に見えるようにはやらない。
そんなのは明らかに無意味な行為だから。
◆
ロバートゥに、そしてあの女に、復讐を。
絶対に痛い目に遭わせてみせる。
「アージョレアロードドラアージョレアドレシアラアージョアージョラフトレシアアママンマロマンアージョレアドミユラアージョレアドミユラアージョアージョレラフトラフトシアラフト」
一人になった夜、私は呪文を唱える。
「ラフトクレシアラフトクレシハメフジロアントネアントネッロアージョレアドロードラアージョレアドララフトラフトレシアラフトシアラフトアージョアドミユラアドロードラ」
これは破滅の呪文。
正確に唱えれば対象者を終わらせることができる。
だが、もしも唱えている途中で間違えば、逆に自分が死に至る。
それでも私は迷うことなく挑む。
「アージョアドロックラミオレミューミロードオレミューアージョレアージョアージョアドリストラアドアドリストラアージョレアージョラフトアージョノペペトララララ」
そしてその翌日。
ロバートゥは馬車に激突される事故に遭って死亡し、女はパーティ中に凄まじい謎の腹痛に見舞われて大変なことを起こしてしまい笑いものとなってしまい社会的に終わった。
呪文の効果は確かだった。
◆
あれから三年、私は、優しい雰囲気の顔つきが印象的な青年ミクフと夫婦となった。
「おはようミクフ」
「あ! もう起きたんだ? おはよ〜」
「今日も仕事? 朝早いわね」
「うん〜そうそう仕事」
「ごめん……私、寝坊して……」
ミクフは最新技術を利用した大規模農業を成功させた大金持ちだ。
でも大金持ちだからと威張ったりはしない。
むしろ常に謙虚でどんな時も余裕と広い心を持っている。
「寝坊? そんなのじゃないよ、大丈夫だよ。早朝は僕が勝手に起きてるだけだし」
私には勿体ないような男性だけれど。
「けど……」
「考えすぎだよ〜」
でも、私を選んだのは彼なのだから、今は少し自信を持っても良いのかもしれない。
「そ、そう……かしら、でも私、ミクフの力になりたくて……」
「いてくれるだけでいいんだよ」
「……本当?」
「うん!」
◆終わり◆




