婚約者の母親が婚約破棄を告げてきました。面倒臭いので逆らわずに去っておきます。
ある日のこと、婚約者ルッセルの母親に呼び出された。
「貴女ねぇ、いつまでルッセルの傍にいるつもり?」
彼女の表情は冷ややか。
そこに優しさなんてものは欠片ほども存在しない。
「婚約者だからって堂々といつまでも居座ってるんじゃないわよ」
「ええっ……」
「当たり前でしょ? 貴女はルッセルには相応しくない。このわたしが手塩にかけて育てたルッセルと貴女みたいな平凡な女がつり合っていると本気で思っていて? だとしたら馬鹿の極みじゃないの」
これまであまり気にしてはこなかったけれど、どうやら彼女は私のことを良く思っていないようだ。
「さっさと消えなさいよ、低級女」
どうしてそんな暴言を平然と吐けるのだろう……。
まったくもって意味が分からない……。
「ま、いいわ。とにかく、ルッセルと貴女の婚約は破棄ね。オーケイ? 確かに伝えたわよ」
「待ってください、本当にそうすべきなのですか?」
「……はぁ?」
「ルッセルさんもそれを受け入れていらっしゃるのですか? もしそうでないなら、それは、お義母さまの勝手な行動です。そのようなことは決して許されません」
するとルッセルの母親は激怒。
「貴女ねええええぇぇぇぇ!! いい加減になさいよ!? このわたしが言えばそれがすべてなの! 誰も口ごたえなんてできないのよ! だってこの家で一番偉いのはわたしなんだもの! それをなんてこと言い出すのよおおおおぉぉぉぉぉッ!? ルッセルがわたしの意見に反対する? そんなわけないじゃないのおおおぉぉぉぉぉぉ!! 可愛い可愛い賢い息子よ!? あの子がわたしに口ごたえ!? ふざけないでちょうだい! 侮辱しないでちょうだい! そんなことを言うなんて! 貴女、あまりにも無礼、無礼よぉぉぉぉぉぉッ!!」
とんでもない勢いで言葉を紡いでこられてしまった。
意味不明だ……。
もう、とにかく、理解不能過ぎる……。
◆
翌日、ルッセルの母親はルッセルに殴り殺された。
何でもルッセルは彼女が私との婚約を勝手に破棄したことに大層怒ったそうで――その感情のうねりに飲まれるようにそういうところにまで至ってしまったようなのだ。
ルッセルは彼女が思っていたほど彼女に忠実ではなかった様子。
少し安心した部分もある。
いい年して言いなりの息子ではないと分かったから、だろうか。
ただ、ルッセルも、暴行によって逮捕されてしまった。
可哀想に……。
面倒な母親を持っていたせいで……。
だが、まぁ、暴力は罪だ。
そういう意味では不運もまた人生であり仕方のない部分もあるのだろう。
◆
あれから三年半が経った。
私は穏やかな家庭を築き、夫と楽しく暮らしている。
先日生まれたばかりの赤ちゃんもいる。それゆえ苦労も多い。たびたび起きなくてはならないところなんて特に大変だ。
ただ、私の場合は夫が育児に協力してくれるので、そういう意味ではかなり恵まれているほうだと思う。
おかげである程度睡眠もとれている。
◆終わり◆




