いきなり婚約破棄宣言されました、が……? ~なんてこった、ですが、彼がどうなろうとも知ったことではありません~
「貴様との婚約なんざ、破棄とする!」
婚約者アルフリットはある日突然そんな宣言をしてきた。
「婚約、破棄……なぜですか?」
「飽きたからだ」
「ええっ……」
「貴様といてもまったくもって楽しくない。よって、この関係は無意味なものであると判断した。こんなことを続けても何の意味もない」
アルフリットはどこまでも心なくて。
「えええ……」
思わずそんな風に声を漏らしてしまうと、鬼のような形相で睨んできた。
「じゃあな、さらばだ」
彼はそう言って部屋から出ようと扉の方へ行く――が、直後。
「ぎゃああああああああああ!!」
叫び声がした。
何事かと思いそちらへ目を向ければ、扉を開けてすぐのところに蟹にも似た形の怪物がいて。
「ぎゃあああああ! だずげでええええええ!」
彼はそれに襲われ、残念ながら餌となってしまった。
だがその怪物はアルフリットと仕留めると去っていく。
こちらへまでは襲ってはこなかった。
こうして、私とアルフリットの関係は終わりを迎えることとなったのだった。
◆
あれから五十年。
良き夫、娘息子、そして可愛い孫――多くの温かな人々に囲まれて、今は穏やかな老後を過ごしている。
もうじき、また春が来る。
そう、心地よく穏やかな春が――。
◆終わり◆




