幼馴染みで婚約者でもあった彼は浮気したうえ心ないことを言いながら婚約破棄してきました。~貴方がいなくても幸せにはなれます~(後編)
「母さん知ってたの!?」
「いいえ、知らなかったわ」
「王子!? 嘘でしょ!? そんなことって……あり得るの!?」
「でもそうみたいよ」
「えええ……」
ということは私は一国の王子を家に置いていたのか。
こ、怖すぎる……。
それから少しして、オシェットはお礼として家へ来てくれた。しかもいろんなお土産を持ってきてくれて。その中には高級な品もたくさんあって、ああやはり王子なのだなぁ、とそれによって初めて実感する。オシェットは良い意味で威厳のない人だからこれまでは信じられなかったけれど、持ってきてくれたお礼の品の顔ぶれを見るとやはりそうなのだと信じられるような気がしてきたのである。
以降、私たちは定期的に顔を合わせるようになった。
会うたび二人で話をする。
くだらないことだって話した、どうでもいいようなことも。
けれども彼はいつだって嫌な顔はせず聞いてくれていたし、穏やかな笑みを向けてくれていて。
だからこそ彼との会話は何よりも楽しかった。
そんな中で私はいつしか彼に惹かれるようになっていた。異性、という意味で。けれども無理な想いだとも思っていた、だから、踏み出すことはできなかった。
だって彼は一国の王子よ? 無理に決まっているじゃない。私は普通の女でしかない、それが彼の隣に? 呆れる。そんなこと、そんな奇跡、起きるはずがない!
けれどもその時はやって来て。
「貴女と結婚したい、そう考えています」
彼はそう言ってきた。
「え……」
告げられた時はまったくもって理解できなかった。
変に冷静さはあって「この人、何を言っているの?」なんて思ってしまうほどで。
「いきなりですみません。けど、いつかは言いたいと思っていたのです。他人でありながら保護し救ってくださった貴女の優しさに、実はずっと前から惹かれていました」
しかしそんな私を見てもオシェットは苛立ちはしなかった。
落ち着いて、優しく、言おうとしていることを整理しながら説明してくれる。
「え、あ、あの……ちょっと、大丈夫、です……?」
「どういうことでしょうか」
「あっ、いや、すみません! 失礼なことを! 無礼を!」
こちらはかなり混乱していて変なことを言ってしまったりもしたけれど。
「いえ責めてはいませんが」
「変なこと言ってしまってすみませんッ」
「いやいや、いいんです、気になさらないでください。それより、共に生きる未来を考えてみてはくださいませんか?」
オシェットはどんな時も穏やかな心を保っていた。
「あ……」
そして、こちらへ向いている彼の瞳は、どこまでも曇りなく真っ直ぐであった。
「嫌でしたらもちろんそう言っていただいで問題ありませんよ」
「……い、いえ、その……とても、嬉しいです」
心はもう決まっている。
彼と生きる。
そう固まっている。
きっと、少し前からそうだった。
彼を想っていたのだから。
「よろしく、お願いします……!」
◆
あれから数年、私とオシェットは夫婦となり生きている。
生まれ育った国を出ること、それは、ある程度勇気のいることであった。
けれども私は迷わなかった。
だって彼のところへ行きたかったから。
愛は勇気となりこの身を突き動かしたのだ。
一方エイリールズはというと、リリサと結婚しようと話を進めるも途中でリリサの親と喧嘩になってしまいある喧嘩中彼女の父親を何度か殴ったために結婚できないこととなってしまったそうだ。
また、暴行罪で牢屋送りとなり、数年を棒に振ることにもなってしまったようである。
もっとも、今さらそんなことを聞いても何も感じない。だって私にはもうそれほど関係のないことだから。我が人生において、彼は既に過去の人。だから、そんな話を聞いたとしても、馬鹿だなぁとしか思わない。
また、リリサはその後別の男性と結婚したそうだが、その男性は結婚後豹変して暴力夫となったそうだ。
で、彼女は、今もその被害を受け続けているらしい。
毎日のように怒鳴られ殴られ蹴られといった感じの生活だと聞いている。
◆終わり◆




