かつて婚約者を妹に奪われた女ですが……今は穏やかにそれなりに幸せに生きることができています。その運命に感謝です。
私はかつて婚約者を妹に奪われた。
婚約者ロードレーフとの仲は悪くなかったのだが、妹であるリーンがロードレーフに惚れて近づくようになった。で、そのうちに段々ロードレーフがリーンになびいていって。気づけば二人は過剰なほどに愛し合うようになっていて。その果てに私は捨てられてしまったのだ。
「ごめんな、婚約は破棄だ」
「悪く思わないでねぇ? お姉さま。わたくし魅力的だからぁ、選ばれてしまっただけなの」
あの時わざとらしく寄り添いながらこちらを見てきていた二人。
その視線の冷たさは、きっと、死ぬまで忘れないだろう。
「俺はリーンと生きていく。だから……これでお別れだ、さよなら」
「お姉さまはもう要らないってことよ!」
……だが、その二人は、それから一年も経たないうちに亡くなった。
二人は婚約した。
しかしそんな二人を待っていたのは死という絶望であった。
ロードレーフは仕事関係の出張中に馬車の事故に遭う。その際、馬車から放り出され、着地したところが不運にも毒のある草の上だった。草に落ちたためその時点では幸い怪我はなかったが、毒草に触れてしまったために皮膚を痛め、そのダメージにより生命が危ない状況へと追い込まれてしまう。
そして、治療のかいなく、彼は数日後に亡くなる。
その話を聞いたリーンは激怒。
彼女はいきなり走ってその山にまで行き、何度も繰り返し「こんな草があったから!」と叫びながら山に火を放つ。
すると一瞬にして燃え広がった。
それを見てようやく落ち着いたリーンは帰ろうとしたが、煙に取り囲まれて帰り道が分からなくなってしまい、道に迷っているうちに気を失う。
そうして彼女は自滅した。
……もう懐かしいばかりの話である。
ちなみに私はというと、今は仕事に打ち込みながらそこそこ快適な暮らしの中に身を置くことができている。
今の仕事は嫌いではない。
たまに残業があるのは面倒臭いけれど。
これからもこんな風にして生きてゆけたら、そう思う。
穏やかな暮らし。
一応ある居場所。
そういった平凡なものこそが愛おしいのだと今なら分かる。
ロードレーフも、リーンも、ここへは辿り着けなかった。けれども私はここへ来た。私はここまで生きてくることを許されたのだ。ならば生きるのみ。ただ息をして、ただ今日を終える、それすら叶わない人も世界にはいるのだから。そう考えるなら、生きているだけである程度は恵まれているのだ。
これからも、細やかな幸せを見失わないように生きてゆく。
◆終わり◆




