晩餐会という場でいきなり婚約破棄宣言をするなんて……どうかと思いますよ? 周りの人たちからも冷ややかな目を向けられていますけれど?
「フィーナ、貴様のような華のない女は俺には相応しくない! よって、婚約は破棄とする!」
婚約者ロマンズはとある晩餐会にてそんなことを宣言した。
周囲には関係のない人がたくさんいるのに。
楽しい雰囲気を敢えて壊すようなことをする必要なんてないはずなのに。
「貴様は俺には相応しくないんだよ。俺に合うのはもっと美しくて爽やかで清らかな乙女なんだ。分かるだろ? 貴様なんかな、そもそも俺とは階級が違うんだ」
ロマンズは酷い言葉ばかり並べる。
「分かるか? 分からないのか? ……だとしたらそういうところも、だな。馬鹿の分際で俺に許してもらい好き放題しようだなんて甘いんだ。そんなで愛されようなんてだらしないにもほどがある」
彼はとにかく酷かった。
どこまでも私を見下し馬鹿にする。
……彼はどうしてこんなにも心ないことを平気でするのだろう。
「価値が上の相手に選んでほしいなら忠実に生き続けなくては、な? だろ? でも貴様はそういう努力をしてこなかった! だから貴様は捨てられて当然だ。俺の機嫌を取らなかったのだからな、捨てられて当然なんだよ! そのくらい簡単なことだろ、分かれ」
こうして私は切り捨てられたのだった。
「なにあれ、ひどーい」
「やば男ね」
「こんなところで婚約破棄宣言をするなんて……勝手過ぎる輩ですわね……」
「それそれ、あり得ないわよね、ないわー」
ただ、晩餐会参加者たちは、私ではなく彼を批判していた。
それには救われた。
間接的にでも味方してもらえているような気がして。
赤の他人だとしても、それでも少し心強さを感じたのだ。
たとえ直接的にではなくても味方してくれる人がいると思えることはありがたいことなのだ、と、一つ気づきを得たのだった。
◆
「フィーナ、婚約破棄されたんだって?」
「ええそうなのよ」
ロマンズに婚約破棄された後、しばらく会っていなかったが昔仲良しだった幼馴染みの彼リーズベールが私の前に現れた。
明らかに意図的な再会だったと思う。
事情を知って、だからこそ、彼は私の前に現れたのだろう。
でも嫌だとは思わなかった。
むしろ話し相手ができたことが嬉しくて。
「それは……大変だったね。あ、急にごめん。変なこと聞いちゃって……」
「べつにもう平気よ」
「そう?」
「ええ。だってもう過ぎたことだもの。それにね、あなたに会えて嬉しいの。今はそう思ってるわ」
懐かしい彼とまた仲良くできるのであればそれはとても嬉しいことだしありがたいことでもある。
「……本当?」
急に改まった様子でこちらを見てくるリーズベール。
紅の双眸は確かに私を捉えていた。
「……どうしたの? 急に」
「いや、実はさ」
「実は?」
問えば、彼は暫し躊躇うような表情を作ったが。
「……僕たち、夫婦にならない?」
沈黙の果てに出てくる意外な言葉。
「……私でいいの?」
「どういうこと?」
「だって私、婚約破棄経験者よ。印象が良くないかもしれないわ。ご両親とか、親戚の方とか、心配されるかもしれないわよ」
私は色々言葉を並べたが。
「いいんだ、そんなことは。……それに、もし反対する人がいるなら僕が説得するだけだしね」
リーズベールの心、決意、それは非常に固いものであった。
そうして私は新しい道へと歩み出すこととなる。
それは、彼と行く未来へと進む、という選択。
画期的なものではある。けれどもある意味定めなのかもしれないと思うこともあるほどに。縁は確かに私たち二人を繋いだ。昔からあった縁を思わぬ形で再び結びつけて、新しい段階へと。私たちを共に在る未来へと誘うのは、もしかしたら、定めそのものなのかもしれない。
◆
あれから一年半、私とリーズベールは結婚した。
今はとても幸せ。
愛し合える人と共に行く未来を手に入れられたことがとても嬉しい。
ロマンズはあれから少しして腐ったチーズを食べて腹を壊しそれによる脱水で落命したそうだが……まぁもう彼のことはどうでもいい。
私がすべきことはただひたすらに歩んでゆくこと。
そして、大切な人と共に幸せに生きることだ。
◆終わり◆




