悪いことなんてしていないのに……婚約破棄されるなんて、理不尽です。~苦難も越えて名誉を掴む~(前編)
その日、私は、自宅の庭にて踊りの練習をしていた。
「はーいっ、とーれっ、はいほれしょい! しょい! はーいっ、とーれっ、はいほれしょい! しょい! はいしょ! ほれしょ! はいしょれしょかしょかしょれしょらしょ! はいっ!」
その踊りというのは、この村で文化の一つとなっている伝統舞踊である。
服装は何でもいい。本来であれば特別な衣服をまとって踊るのだが、今はあくまで練習のため何の服をまとっていたとしても関係はないのだ。ただし、扇は要る。それは舞うために必要なことだからである。
「しょっしょらしょっしょらしょっしょらしょっしょらしょっしょらしょっしょらほいほいほい! しょっしょらしょっしょらしょっしょらしょっしょらしょっしょらしょっしょれほいほらほい! はい! せい、はいっ! せい! せい! せいせいせいせいせいせいせいせいしょっほらせいせいはい! はい! はーいっ、とーれっ、はいほれしょい! しょい! はーいっ、とーれっ、はいほれしょい! しょい!」
この村ではある程度の年になれば女性は必ずこれを習い身につけるのだ。
……だが、隣町の人間であり私の婚約者であるリーズベリアルはそのことを知らず。
「何だ、その踊り。キモ。ごめん、もう無理だわ。君のことそういう目で見られなくなったわ。てことで、婚約は破棄な」
それゆえ、私が踊っているところを目撃して引いてしまったようで。
「見るからにおかしいじゃん、その踊り。きついわ。君がそんなにあれな娘だとは思わなかった……がっかりだわ。……じゃね、バイバイ」
さらりと言われ、婚約破棄されてしまったのだった。
ひたすら悲しい……。
ただ踊っていただけなのに……。
でも、この村で生きていく以上、この踊りを避けることはできない。だからこの運命もまた避けることのできない運命なのだ。つまり、彼と別れることになるのも運命。ある意味それは定めであったのだろう。
定めなら仕方ない、そういうこともある。
……とにかく、今は前を向こう。




