婚約している王子の幼馴染みである女が嘘をついて私を陥れてきました。嘘のせいで国外追放とか、悲しすぎです……。
「彼女よ! 彼女がわたくしを虐めているの!」
清い力を宿して生まれ、聖女として生きることとなった私エリーサは、王子フィッモレスと婚約していた。
王子と共に国を守る。
良き国を築くために、民の最大限の幸福のために、己を犠牲にするとしても生きる。
そう覚悟を決めてここへ来たのに。
「フィッモレスさま! 彼女がわたくしを虐めたのよ! 酷いの! 熱いお茶をかけたりなんかしたのよ!」
フィッモレスの幼馴染みだという女リリアに嘘をつかれ、なにもしていないにもかかわらず婚約者の幼馴染みを虐める悪女に仕立て上げられてしまった。
何度も否定した。そんなことはしていない、と。私はそんなことはしていないしするつもりもない、そう話した。虐めていない証拠だって提出したし、誠実に対応してきたつもりだ。
でも、私の味方でいてくれる人はおらず。
「エリーサ、貴様がそこまで悪女だとは思わなかった。……がっかりだ。聖女なのだし、良き乙女だと思っていたのにな」
「この前も虐めていないとお話ししたはずです」
「いや、もういい。言い訳とか誤魔化しとか、そういうのにはもう飽きた。もうすべて分かったんだ、だから何も言わなくていいし言わないでくれ」
婚約者であるフィッモレス、当人である彼ですら私を悪女であると信じて疑わなかった。
「ということで、貴様との婚約は破棄とする!!」
そうして私は捨てられ。
「また、貴様には、リリアを虐めたことへの罰として国外へ退去してもらう」
さらに国からも追い出されてしまうこととなった。
「待ってください! 国外追放はさすがに酷すぎます!」
「は? 虐めた者が悪いんだろ。いじめはな、した方が圧倒的悪なんだよ」
「前提が間違っています!」
「ああ? 何だって? 何が間違いなんだ?」
「ですから、私は、リリアさんを虐めてなどいないのです。ずっと主張しているではないですか。証拠も出しました」
何とか真実を理解してもらおうと努力をするけれど。
「うるさいうるさい! さっさと消えろ!」
まったく理解してもらえないままで、私は去ることとなったのだった。
国のために生きようと心を決めたのに、まさか国から追い出されることになるとは思わなかった。
◆
私は隣国の女王に引き取られた。
事情を説明すると彼女は苦しみに理解を示してくれたのだ。
「今まで大変であったな。だが今後は心配など不要。妾と共に生き、共に幸せになろうぞ」
こうして大国の女王のもとで暮らせることになってから、私は幸せだった。
嘘をついて私を陥れようとする者がいない、ただそれだけで、毎日は快適だったのだ。
ちょうどその頃、フィッモレスらがいるあの国は、とんでもないことになっていた。
様々な意味での災難が降りかかり。
民の命すらも危ういものとなる。
人々から笑顔は消え、日々の生活がそれどころでないために娯楽もなくなり、誰もが絶望と憤怒に駆られる国となってしまった。
もちろん聖女であると嘘をつくだけのリリアでは状況を改善することもできない。
そうしてやがて民らの黒い感情は刃となる。
当然それが向く対象となるのは王子であるフィッモレスやその妻で聖女を騙るリリア、そして王族らなどである。
彼らは次第に民らに怨まれるようになり、しまいには様々な形ではあるが殺められてしまった。
王子はフィッモレスの最期は公開での処刑。
偽りの聖女であるリリアの最期は大衆の目の前での火による処刑。
……であったと聞く。
◆
「エリーサ、来てくれたのだな」
「はい、陛下」
私は今も穏やかに暮らすことができている。
すべては偉大な女王の保護のおかげだ。
「ではいつものように、茶を飲もうではないか」
「は、はい……!」
「もう淹れさせておる。今から出させるので、共に楽しもうぞ」
「ありがとうございます」
「気に入ると良いのだがな」
女王はいつも色々な楽しみを与えてくれる。
だから私はそんな彼女のことが大好きだ。
「さて、こちらが言っていたものだ」
「ルビー色のお茶……! これはかなり綺麗ですね」
「そうであろう? 妾の好物なのだ」
「美味しそうです。それに、匂いも、爽やかで……」
「さぁ、飲むといい」
私はこれから先もずっと彼女のために彼女と共に歩んでゆくつもり。
「……美味しい!」
「はは、そうであろう? やはり。気に入ると思っておったわ。さすがはエリーサ、理解がある」
「ありがとう、ございます」
「では好きなだけ飲むと良いぞ。ついでに話し相手になってくれ。ゆっくりしてゆくといい、お菓子もたんまりとあるのだからな」
愛しい人、偉大な人、尊敬できる人のためにこの力を使いたい。
◆終わり◆




