可愛い妹がこのたび婚約破棄されまして。~姉として、彼を許すことはできません~
「お姉さまああぁぁぁ!」
「どうしたの!?」
ある日突然駆けてきた妹ルリア。
彼女は三つ年下の可愛い可愛い妹である。
「聞いて……アッシュさまから、婚約、破棄を……告げられて……」
ルリアは泣いていた。
「え? え? こ、ここ、婚約破棄……!?」
「そうなの……」
「どうしてそんなことになったのよ!?」
「何かね……アッシュさま……好きな人ができてしまったらしくって……」
容姿は整っていて、愛らしく、長い金髪は美しく、服を選ぶセンスにも長けていて、それでいて性格も良く……そんなルリアと婚約しておきながら、他の女に目を向け、のみならず婚約破棄までしてくるなんて!
……それに、可愛いルリアを泣かせるなんて、姉として許せない。
「ごめん、なさい……っ、私……お姉さまに、迷惑、かけたくないっ……のに……」
「いいの、いいのよ。辛い時は泣いたっていいの」
「お姉さま……っ、ぅ、ごめん、なさい……」
「謝らないで。辛い時や悲しい時は助け合うべきなのよ。私たち姉妹なんだから、頼り合ったっていいの」
ルリアを抱き締め、その柔らかな金髪を撫でながら、私は決意する。
「だから、こういう時こそ、私に頼って?」
「っ、ぅ、お姉……さまっ……」
「はいはい、いいのよ、泣いたって。大丈夫、私はずっとルリアの味方だから。だから安心して」
アッシュ、その身勝手極まりない男を、私は絶対に許さない。
「あり、が……っ、と……」
「ずっと大好きよルリア、愛しているわ」
殺すわけじゃない。
この手で殺める予定ではない。
でも、絶対に、彼には傷ついてもらう。
彼の身勝手さを世に広くしらしめてやる。
無礼なことをしたのだと少しは気づいてもらわなくては。
◆
アッシュがルリアに対して何をしたのか、それを広めよう。
そう考えた私は、新聞社の社長の娘である友人に頼み、その悪しき行いの情報を世に広く流してもらった。
するとアッシュの勤め先の社長が激怒。
というのも、その社長は、自身の娘がかつて同じような目に遭わされたことがあったのである。
だからこそその人は強く怒った。
かつて同じような災難に見舞われたことがあるからこそ、その痛みが分かるし、そういった行為に対する怒りも生々しく胸の内に存在しているのである。
そしてその社長はアッシュをクビにした。
人として最低の行為をした者を社内に置いておくことはできない、ということでのクビであった。
突然失職することとなり狼狽えているところに、今度はこちらから向こうの都合による婚約破棄をしたことの償いのお金を請求。それによって彼はさらに混乱する。だがそれが狙いである。
彼にはとことん混乱して疲れてもらわなくては。
そうして私は償いのお金を支払ってもらうことに成功した。
「凄いわ……! お姉さま、さすが……!」
「ありがとうルリア」
「お礼を言うべきなのはこっちよ」
「気にしないで! だって私たち姉妹でしょう? だからどんな時も共にあるわ。困った時には頼ってちょうだい!」
仕事を失い、お金も失い、評判も地に堕ちて。
生きてゆくことに希望を見出だせなくなったアッシュは心を病み、体調も崩して、やがて脱水によって亡くなった。
◆
「ルリア! パンケーキ焼いたわよ。良かったら一緒に食べない?」
「お姉さま……!」
「前好きだって言ってくれていたわよね、パンケーキ」
「好き……! ありがとう、とても嬉しい。お姉さまが作ったものなら何でも好きだけれど……パンケーキは特に好きなの」
あれから一年半。
私たちは姉妹二人で暮らすようになった。
「お、い、しぃ~~い!」
「ほんと!?」
「お姉さまのパンケーキ、さ、いこぉ~~!」
「ルリアが気に入ってくれたなら、そんな幸せなことはないわ」
私たちは二人で生きてゆく。
男性になんて頼らなくとも生きてはゆけるのだ。
「ねぇお姉さま、今度薔薇園へ行ってみたいのだけれど……」
「薔薇園?」
「ええ。王都公園の近くにあるみたいなの」
「へぇーっ、知らなかった」
「二人で……行ってみない? どう?」
「いいわね! 行こ!」
幸せの形は無限にある。
そう、最も理想的な幸福とは、人それぞれなのだ。
◆終わり◆




