学園時代に知り合った婚約者の彼は私を裏切り妹のほうへ行ってしまいました……でも負けません!
「ミレーニア、君のことをずっと愛するよ」
学園時代に知り合った彼ウォッシは婚約が決まった時そう言ってくれていた。
だから私は彼を信じたのだ。
彼は永久に私を愛してくれるのだ、と。
けれどもその言葉は所詮その場しのぎ。本当にそう思っていたのか思っていなかったのかは定かではない。ただ、その誓いは永遠の誓いではなかった、そのことは確かなもの。悲しいことだが紛れもない事実であった。
……だって彼は私ではなく私の三つ年下の妹を愛するようになってしまったのだもの。
しかもただ彼が惚れただけではない。妹が彼に積極的に擦り寄ったのだ。そして彼はそれに流されて。
で、やがて二人は愛し合うようになってしまったのだった。
「ごめんミレーニア、僕はもう君を愛せない」
「そんな……」
「なぜって、君ではなくては君の妹さんを愛してしまったんだ」
「ええっ」
「だから悪いけど君との婚約は破棄するよ」
私は選ばれなかった。妹に負けた。それだけでも悲しみは生まれる。ただ、単に妹が選ばれただけであれば、絶望はそこまで大きく膨らみはしなかっただろう。でもその時妹は私を見下すように笑ったのだ。謝るでもなく、申し訳なさそうにするでもなく、負け犬を見るかのような目で私を見て「残念だったわね」なんて呟いて。
「ウォッシさまはあたしのものよ。もう彼に近づかないでちょうだいね」
しまいにはそんなことまで言われた。
何よそれ……。
まるで私が悪者みたいに……。
こればかりは許せなかった。
だから私は世に広く言いふらした。
妹が何をしたのか、ということを。
それによって妹の評判は著しく低下。
彼女は街の道を歩くだけでもひそひそ話をされてしまうようになってしまった。
「あの娘よ、噂の!」
「ああ、姉の婚約者を奪ったっていう?」
それによって彼女は少しずつ心が壊れていって。
「聞いたわ、あの娘よね噂の。あり得ないわねぇ。姉の男に手を出すなんて……」
「ほんと、それね」
「酷すぎる女よね……意味不明だわ……」
「強烈ね!」
「そんなこと平気でできる妹なんていたら吐きそうだわ……」
やがて妹は風邪を引いたわけでもなくても寝込むようになっていった。
精神からくるものだろうが。
喋ることもできず、食べることもあまりできず、彼女は日に日に衰弱していった。
そうして彼女はこの世を去った。
ウォッシは彼女の死を大層嘆き悲しんでいた。
ああ、やはり、彼は彼女を愛していたのだな……。
考えれば考えるほど溜め息が出るばかりであった。
そんなウォッシもまた、そこから体調を崩すようになり、やがて家から離れられないようになっていった。健康な彼はもういなくなったのだ。仕事も辞め、自宅にこもって。ただひたすら寝ているような生活になっていったようである。
◆
あれから数年、私は愛する人と結婚式を挙げることができた。
ウォッシを妹に奪われた時にはかなりショックだったけれど、でも今は、あれがあったからこそ現在の私があるのだと思えている。
だからもう過去の絶望には縛られはしない。
前を向くのだ。
己の足で踏ん張って。
どんな道が目の前に現れたとしても、挫けず、心折れず。
時に困難に出会ってもそれでもなお歩いてゆく。
辛いこと、悲しいこと、もし人生の中でそういった物事に出会っても。それでも負けない、今はそう強く思うことができる。
それはきっと一人ではないからだろう。
私はもう一人ではない。
だから自分だけで戦うわけではない。
これからは夫である彼と共に様々な出来事へ立ち向かってゆくのだ。
だから大丈夫。
二人でいればどこまでも強くなれる。
◆終わり◆




