人見知りで大人しかった婚約者ですが、短期留学から帰ってくると別人のようになっていました……!?
「はじめまして、ルリシーラと申します」
「……ぁ、はい」
私ルリシーラと彼ルックが婚約することになったのは私たち二人が愛し合ったからではない。
ルックはかなりの人見知り。それゆえ女性の親しい人なんてできるはずもなくて。そういう年になってもよさげな関係性の異性は出てこず。それに困り果てたルックの両親が、私の親に連絡してきて、それで二人を結婚させるということになったのだ。
「貴方がルック様ですね」
「は、い」
「婚約ということで、これから、どうかよろしくお願いいたします」
「……はい、よろしく……ぉ、願い……しま、す」
「仲良くしてくださいね」
「……ぁ、ゃ、その……は、はい」
出会ってすぐの頃は会話すらままならず。ただそれでも誠実さは伝わってきて。だから私は彼を嫌いだとは思わなかった。嫌な印象は抱いてはいなかったのだ。彼は人見知り、彼はそういう人、そういうものと理解していた。
だがそれから少しして、彼は隣国へ短期ながら留学することとなった。
そしてそれから帰ってきた時。
「ごめんルリシーラ、君との婚約は破棄する」
「えっ!?」
「だってさぁ、あっちの国にはもーっと可愛い女の子がたくさんいるんだよ。だからもう君なんて見えないんだ」
彼は変わってしまっていた。
「えええ……」
「世界には可愛い女の子があんなにいるなんて知らなかったなぁ」
「そ、そうなの……」
「もう君なんて見えない。もう君なんて無理。だ、か、ら、さよっならぁ~ん!」
隣国の乙女たちにすっかり染められた彼は私が知るかつての彼ではなくなっていたのである。
◆
婚約破棄後、ルックは多数の女性と深い仲となることを繰り返していて、そんなことをしていたところ病気を貰ってしまったようで……しかしそのことを周りには隠していて、適切な治療を受けなかったために悪化、そのまま死へと至ることとなってしまったようだ。
まるで花火の最後のような。
あの頃の人見知りで大人しいルックとは別人のような行動をしたまま死んでいったそうである。
人は変わるものなのだなぁ、と、改めて気づかされた出来事だった。
◆
「ルリシーラさん、僕のところへ来てくれて本当にありがとう」
驚くようなことだが、私は王子と結婚することとなった。
「いえ……」
その話が出た時には周りには反対する人もいた。王子が近づいてきたなんておかしい、と、皆かなり警戒していたのである。何か企んでいるのでは、と言われることも多々あった。
でもそれらの反対も彼と二人で乗り越えて。
そうして今のこの関係が築かれた。
「大丈夫? 体調が優れない?」
「いえ!」
「あ、そっか。なら良かった。困っていることがあったら何でも言ってね? 遠慮はなしで」
「……ありがとうございます」
私たちには強さがある。
困難に打ち勝つ強さ、そして、手を取り合って歩んでゆく強さが。
◆終わり◆




