雨降りの日に婚約者に呼び出されたのですが、指定の場所で待っていた彼はなぜか女を連れていまして……?
その日は酷い雨降りの日であった。
婚約者であるミートリットに珍しく「話したいことがある」と呼び出され、彼が指定してきていた新緑公園へと向かうと、そこには女連れの彼の姿が。
「悪いな、雨の日に」
「いえ。……それで、ええと……そちらの女性は、一体?」
「もう気づいたか、話が早いな」
「どなたですか?」
横向けに吹き付けるような雨は、傘をさしていても身を濡らしてくる。
「彼女はオリシアといってな、俺が今他の誰よりも愛している女性だ」
ミートリットの発言に、口がぽかんと空いてしまった。
他の誰よりも愛している女性……?
婚約者の前でそんなことを言うの……?
「で、今日はそれに関する話で君を呼んだんだ」
「はい……」
「俺はな、彼女と生きることにした。だから……君との婚約は破棄とさせてもらう」
やがて告げられたのは関係の終焉を宣言するような言葉で。
「俺とオリシアの幸せのためだ。……悪いが君は消えてくれ」
彼の瞳は冷たかった。
私への前向きな感情などもう欠片ほどもなさそうだ。
「ごめんなさいねぇ、婚約者さんっ」
「こら。オリシア。謝らなくていい。お前は何も悪くないんだから」
「でもぉ……」
「いいんだ、お前は謝らなくていい。もしあいつがお前を責めるなら、それは、お前ではなく逆恨みするようなあいつが悪いんだ」
こうして関係は終わった。
◆
ミートリットは私を捨てるや否やあの女性オリシアと婚約した。
しかし婚約してからオリシアの親がグレーゾーンな事業に手を出している人であることが判明する。
けれどもその時になってから逃げることはできず。
ミートリットは仕方なくその事業に協力することとなる。というのも、オリシアの親からオリシアとの結婚と引き換えに協力するように言われたため拒否はできなかったのだ。
そうしてやがて国から目をつけられて。
しまいにはミートリットが逮捕されてしまう。
だがその時にはオリシアとその親は彼を支えてはくれなかった。
とかげのしっぽ切り。
ミートリットが拘束されると彼女たちはそそくさと逃げてしまったのであった。
罪人となってしまったミートリットは、一人、日々牢の中で冷えた食事を取ることとなってしまったのであった……。
◆
ちなみに私はというと。
あれから色々あったけれどとても良い人と巡り会いその人と結ばれることができた。
苦労があったこともまた事実ではある。それでも、その先に良き出会いと明るい未来があったのだから、そういう意味ではこれまでのすべての経験が今の私を形作ってくれているともいえるだろう。
今日に至るまでに経験したすべての物事を糧として、背負い抱えながら、真っ直ぐに前を見据えて歩んでゆく。
時に苦しんでも。
時に傷ついても。
それでも何度でも立ち上がって、強く生きるのだ。
◆終わり◆




