薬屋の娘ですが、常連客であった婚約者から婚約破棄を言い渡されてしまいました。~それでも前を向いて生きてゆくのです~
私、ミーナは、薬屋の娘。
両親が営む薬の店を日々手伝って生きている。
「いらっしゃいませ!」
「ミーナちゃん今日も元気だね」
「ありがとうございます!」
「じゃあ今日もいつもの健康茶を頼むよ」
「はーい」
常連客の中には私を可愛がってくれている人も少なくない。
だからこそやる気が湧いてくるし前向きに歩むことができている。
「ミーナちゃん、いつもの」
「はい! 確か一週間分でしたよね?」
「そうそう」
「分かりました! では今からご用意しますので、しばらくお待ちください!」
「ありがと~」
そんな中で出会ったのが、婚約者となった青年ベリアルであった。
彼は最初風邪の薬を貰うために店へ来てくれていた。で、そうして定期的に会っているうちに段々仲良くなって。そんな時に彼が「今度二人でお茶しませんか?」と言ってくれて、それで私たちの関係は次の段階へと進んだ。
そうして婚約するに至った……のだが。
やがて関係は少しずつ悪いものになっていってしまう。
喧嘩したわけではないし問題が発生したわけでもないのだが、徐々に、彼がそっけなくなっていったのだ。
そして、ついに。
「ごめん、ミーナ、君との婚約だけど破棄とさせてもらうことにしたよ」
そんなことを告げられてしまう。
「え……」
「俺、他に好きな人ができたんだ。そうしたらもう君を魅力的だと思えなくなってしまって。ごめん、本当に。でも自分に嘘はつけないから」
「そう……ですか」
「うん。だから終わりにしよう。ごめんね」
ごめんね、なんて言われても。
そんなものは救いでも何でもない。
捨てられることに変わりはないのだから。
「大丈夫、ミーナならきっと良い人に巡り会えるよ」
彼は別れしなそんなことを言っていたけれど、そんなものは慰めにはならなかった。
むしろ不愉快さが高まるばかりで。
何とも言えないような思いがつのるばかりであった。
◆
婚約破棄されてからの私はというと、それまで以上に店の手伝いに精を出すようになった。
なぜって? 簡単なこと。それ以外にすることはなかったからである。
することはない、でもじっとしていたら落ち込んできてしまう。となれば、私はどうやって生きるべきか? ……簡単だ。ただひたすらに動き続ける、ただひたすらに働き続ける、それが最適解だろう。
「いらっしゃいませ!」
「聞いたわよ、婚約破棄されたんですって?」
「ああ、そうなんですよー」
「気にすることはないわよ。ミーナちゃんは素晴らしい女の子なんだから。自信を持って生きてちょうだいね」
「励まし、ありがとうございます!」
辛いこと、悲しいこと、苦しいこと。
生きていれば色々ある。
でもそれとは逆に良いことだっているし味方でいてくれる人だっているのだ。
「ミーナちゃんを捨てるなんて残念な男やなぁ~」
「すみません、面白い話でなくて」
「自分やったら絶対離さへんのになぁ~」
「あはは」
だから私は歩んでゆける。
傷つきながらでも、前を向いて、そうやって少しずつでも着実に進んでゆくのだ。
◆
あれから三年。
驚くべきことだが私は王子と結婚した。
出会いはやはりお店であった。
視察にやって来ていて怪我してしまった王子の手当てを任され、それを上手くやってのけたことから、彼との関わりは始まった。
そうして見初められた私は彼のものへ行くこととなったのだった。
ちなみにベリアルはというと、あの後言っていた女性と結婚したようだ。しかし結婚した途端女性が高圧的になったそうで。そこからベリアルは女性の言いなりにならなくてはいけないこととなってしまったそう。また、二人で住んでいたところにある時女性の両親が無理矢理やって来て住み着いてしまい、それ以降ベリアルの立場はより一層良くないものとなってしまったそうで。彼は妻とその両親にこき使われる人生を歩んでいかなくてはならないこととなってしまったようである。
◆終わり◆




