これまでずっと母に虐げられて生きてきました。でももうそれはおしまいにします、というのも、ついにおしまいにできる時がやって来たのです。(2)
「私はもう貴女と一緒にはいられない。貴女が発する理不尽な暴言に傷つけられるのはもう嫌。だから私はここを出ていくの」
私はそれだけ言って家を出た。
もう戻らない覚悟で、未知の溢れる道を歩き出す。
怖いことだってあるけれどそれでも私は進んでゆくのだ。
「大丈夫だった? ちゃんと抜けられた?」
「はい。大丈夫でした。母には睨まれましたけど……でももうそんなことに屈する私ではありません!」
約束の場所へ迎えに来てくれたウィブレッシュの顔を見て安堵する。
「強くなったね」
「ウィブレッシュさんのおかげです!」
こんなことを言うと恋に溺れる乙女みたいで馬鹿と思われてしまうかもしれないけれど……でも、今は、ウィブレッシュがいてくれるだけで強く生きられるような気がする。
「そんなことないよ」
「そうですよ! ウィブレッシュさんに出会えたからこそ実家を出るという勇気が出せたのです!」
吹き抜けてゆく風はこれまで感じたことがないほど爽やかなものだった。
「では行こうか」
「はい!」
そうして私がたどり着いたのはウィブレッシュの屋敷であった。
「ひ、広い……!?」
「ここが家なんだ」
「ええ!? ウィブレッシュさんの、ですか!?」
「そうだよ」
「えええーっ……、信じられません、こんな、こんな……大きな家だなんて……!」
ウィブレッシュへの尊敬の念が膨らむ。
「ここでならのんびり暮らせそうだと思わない?」
「思います!」
「あはは、即答だね」
「えと……変ですよね、えへへ……ちょっと変なテンションで申し訳ありません」
こうして始まってゆくウィブレッシュとの暮らし、それはとても豊かで幸せに満ちたものであった。
ウィブレッシュは資産家の息子だったようで経済的にかなり余裕のある人だった。それゆれ私のような人間を養うくらいの余裕があったのだ。だから彼は私をここへ連れてきてくれた、どうやらそういうことのようである。
しなくてはならない仕事は特になく、また、苦労するようなことやいかがわしいことを求められることもなかった。
彼と出会えた私は着実に幸せへの道を進んでいっていた。




