幼馴染みの嘘を信じ私を責めたうえ切り捨てるのですね? 分かりました。でもそんなことをして後でどうなっても知りませんよ?
始祖たる女神を宿しているとされる私エリーゼは生まれ育った国の王子アリフレッドと婚約することとなった。
「エリーゼ、お前は我が家の誇りだ」
「元気でね」
「ずっと愛しているわエリーゼ」
家を出る時は寂しかったし少々辛さもあった。
でもそれが家族皆のためになるのだと思えば苦しみだって乗り越えられた。
私が皆の力になるのだ、と。
そう思えること、そう信じられること、それが何よりもの救いであったのだ。
知らない場所へ行くのは怖い。そこには知り合いはほぼいないわけだし。王城へ行ってしまえば私は一人ぼっちだ。家族はもちろんのこと、知人も友人もいない。
でもそれでも前を向こうと思って頑張っていた、のだけど――。
「エリーゼ、きみ、ネッタを陰で虐めているそうじゃないか」
「え……」
ネッタというのは確か……アリフレッドの異性の幼馴染み、だったような気がする。
前に挨拶をするためとか何とか言って一度だけ会ったことがある。もっとも、その時は凄まじい睨み方をされてしまったのだけれど。それゆえ仲良くなれそうにはなかったのだが。
ただ、虐めた、なんて言われるのは納得できない。
「私、虐めてなどいません」
だから落ち着いて本当のことを言った。
「嘘つけ!」
でもアリフレッドは聞いてくれそうにない。
「待ってください。嘘ではありません。私が他人を虐めると、本当に、貴方はそう思われるのですか?」
「だがネッタは虐められたと言っているんだ!」
「勘違い、あるいは人違い、でしょう。それか私を貶めるための嘘です」
「嘘だと? ふざけるな! きみはどこまでネッタを侮辱するんだ! エリーゼ、きみ、最低すぎるぞ!」
何を言っても無駄なのか、と、諦め始めた頃。
「もういい! エリーゼ、きみとはここでおしまいだ。きみとの婚約は……本日をもって破棄とする!」
関係の解消を宣言されてしまった。
でもきっとこれは定めだったのだろう。
私が何を返していても結局はここへ至ったはずだ。
だって彼はネッタのことしか信じていないから。
「出ていけ、クソ女!」
◆
私との関係を解消した後、アリフレッドはネッタと婚約した。
しかしその頃から謎の不幸がやたらと発生するようになる――主に王家王族に、である。
ある王族は視察中に突然倒れ気を失ったそのままで亡くなった。
また別の王族は自室で暮らしていたところ突如吐き気を訴え医師を呼んだが呼ばれた医師が駆けつけた時には全身の穴から出血して動けない状態になっていった。
などなど、謎の不幸現象が続くようになった。
そしてやがてそれはアリフレッドらの身にも降りかかることとなる。
アリフレッドはネッタと王城近くの庭園を散歩していた時に突然倒れ呼吸をすることが難しくなってしまい搬送、死は免れたものの意識はほとんど戻らず、そのまま寝たきりになってしまう。
またその一件によってネッタは城内で「あの女は呪われている」と言われるようになり、それによって徐々に心を病んで、次第に自室にこもって出られないようになっていった。
そしてやがてネッタは魔女として王の側近の一派に捕らえられ、火にかけられて処刑されることとなる。
……でももう遅い。
今になってネッタを殺めたところで失ったものはもう戻ってはこない。もはや手遅れだ。彼女が落命したとしてもすべてが元通りになるわけではない。
ただ少し憂さ晴らしになる程度でしかないのだ。
◆
あれから数年、私は今、愛する人と共に田舎町でのんびりと暮らしている。
便利さが低い、近所の人との関わりが多い、などの手間は多少あるけれど、でもそれなりに上手くやって穏やかに暮らせている。
夫と支え合いながらなので楽しさのある日常である。
王城でなくても、金銀財宝はなくても、幸せは掴める――そう確信している。
◆終わり◆




